流動化する国際政治
新型コロナの襲来に続くロシアのウクライナ侵攻、そしてより長期的な中国の台頭。近年、国際政治は流動化し、構造的な組み替えが発生している。こうした中で、日本はどのように安全保障を確保していけばよいのだろうか。
中国が尖閣諸島の領有を唱え、その実効支配化を試みていることは、日本にとって最も差し迫った安全保障問題だ。日中両国は2022年9月に国交樹立50周年を迎える。だが中国による香港の民主派弾圧や海警法の制定、そして台湾への威嚇を目の当たりにしてきた日本側に祝賀ムードは皆無だ。ただし過去半世紀、この問題で中国が常に日本の脅威であったわけではない。中国にとって尖閣諸島の重要性は、時代とともに大きく変化した。
本稿はその様相を振り返ることで、いま発生している変化の意味を考察し、今後の中国の動向を予測したい。中国にとって、尖閣諸島はもはやグローバルな対米競争の一部になった。中国はこれから新たな「韜光養晦」フェーズに突入し、自国の海洋監視能力の長期的な飛躍を目指す。力の逆転を防ぐため、日本は諸外国とともに海洋状況把握(Maritime Domain Awareness: MDA)に努め、中国に対する抑止力を総合的に強化する必要がある。
尖閣問題の発端:海洋権益
中国政府が尖閣諸島(中国名:釣魚島)を初めて自国の領土と主張したのは1971年12月である。中国は今日、歴史資料を断片的かつ恣意的に用い、釣魚島は古来中国領だったと主張するが、学術的に見れば政治的創作である。1960年代末、国連の委員会(ECAFE)が東シナ海で資源調査を行い、尖閣諸島周辺に中東以上の石油の埋蔵があると指摘した。のちに誤りだったとわかるその「事実」は台湾系知識人の関心を惹きつけ、1971年に中華民国(台湾)、そして中国が次々とその領有を主張した。
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