グローバル化する尖閣問題にどう対処するか 中国は海洋監視能力の飛躍的な向上を図っている 

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結果的に、中国を新たな行動へと突き動かしたのは反日ナショナリズムである。冷戦後、中国は日本の歴史認識への批判を始めた。1996年、中国政府が国内で「釣魚島」問題に関する議論を解禁すると、島は一気に反日ナショナリズムのシンボルへと浮上した。

2001年以降、 小泉純一郎首相の靖国神社参拝で中国人の反日感情が激化すると、国家海洋局と傘下の中国海監は尖閣周辺での行動を格上げした。中国海監は2008年12月、定期パトロールの名目で尖閣諸島の領海に初侵入している。2010年9月には中国漁船が領海からの逃走中、海上保安庁の巡視船2隻に体当たりする事件が発生した。2012年には日本政府の尖閣3島購入を口実に、中国は官民あげて大規模な日本叩きを実施した。

中国がこのような行動を取れたのは、尖閣問題が日中間の「閉じた」問題だったからである。アメリカは国家間の主権問題に関与しない姿勢を維持し、2010年の日中関係の緊張後も尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象になると述べるに留まった。アジアから遠いアメリカでは、台頭した中国が力に任せて勢力圏を拡大しているという見方はなかなか浸透しなかった。そのため中国も中国海警(2013年に名称変更)の一方的増強に励めた。

ロシアのウクライナ侵攻:新たな「韜光養晦」

だが、中国の台頭の影響がグローバル化し、アメリカの対中認識が変化したことで、尖閣問題をめぐる構図も組み替わった。トランプ政権以降のアメリカは、東シナ海、台湾海峡、南シナ海を結びつけ、中国が秩序転覆を図っているという視点でこれらの問題を理解している。ゆえに中国も、対米安全保障の全体像の中で尖閣問題に対処せざるをえなくなった。

2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、この状況に拍車をかけた。侵攻後、西側先進国では中国が台湾に同様の行動を取るのではという見方が強まった。だが実際には、ウクライナ人の激しい抵抗は中国に海を隔てた台湾攻略の難しさを見せつけ、西側先進国による対露経済制裁は人民生活への影響の大きさを知らしめた。中国が近い将来、類似の行動に出る可能性は大幅に低下した。

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