高校野球の「名将」たちも疑問の声を上げた。横浜高の渡辺元智元監督は「佐々木君本人にどこか故障があるのならやむをえませんが、なぜ一番大事な決勝戦にエースを投げさせないのかは、理解に苦しみます」と言った。
智辯和歌山高の高嶋仁監督は國保監督の決断を尊重しつつも「これで壊れるなら、プロに行っても壊れる」と語った。岩手県高野連や大船渡高には苦情の電話が殺到、大船渡高OBの間では監督の更迭を求める声も上がったと言う。
一方で、ダルビッシュ有や桑田真澄など、國保監督の決断を擁護する野球人もいた。
國保監督が佐々木を決勝のマウンドに上げなかったのは、4回戦の盛岡四高戦が脳裏にあったからだろう。2-2で延長戦に入った時点で、佐々木の投球数は100球を大きく超えていた。佐々木のことだけを考えれば降板させたいところだが、2番手以下の投手との実力差がありすぎる。結局、続投させて194球も投げさせることになった。
決勝戦の相手は、強豪の花巻東。いかに佐々木であっても接戦になる可能性が高い。一度マウンドに上げてしまえば、途中で降板させることはできないという判断があったと思われる。
佐々木の球数が厳格に管理されていた理由
佐々木朗希が注目され始めた2019年4月中旬、筆者は川崎市にあるスポーツクリニックを取材した。待合室で待っていると、診察室から長身の高校生選手と指導者が出てきた。佐々木朗希と國保監督だった。國保監督と佐々木はこの時期、何人かのスポーツドクターのもとを訪れていた。
複数の医師の話を総合すると、國保監督は佐々木朗希の骨、靭帯、関節などを精細にチェックし、専門家のアドバイスを仰いだ。医師の診断ではこの時期の佐々木朗希は、骨端線がまだ閉じ切っていない状態、つまり子供期の身長の伸びがまだ続いている状態であり、過度な運動や無理な動きをすると骨や関節に深刻な影響が残る可能性があった。
これを知った國保監督は、佐々木の球数を厳格に管理していたのだ。単なる印象論ではなく、明確なガイドラインを持っていたのだ。國保監督は筑波大学野球部で川村卓監督の教えを受けた。川村氏は野球動作に関するバイオメカニクスの第一人者だ。また卒業後はアメリカの独立リーグでもプレーした経験がある。野球を科学的に学ぶとともに、国際的な視野も有していたのだ。
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