甲子園には出場しなかったが、佐々木は9月には韓国、機張で行われたWBSC U-18ワールドカップに侍ジャパンの一員として出場した。しかし登板は韓国戦の1イニングのみ。
筆者は現地で観戦したが、星稜の奥川恭伸(現ヤクルト)、興南の宮城大弥(現オリックス)などと楽しそうに語り合う佐々木は、大きな体に似ず物静かで、仲間に気を遣うことができる細やかな性格のように思えた。
10月のドラフトで佐々木朗希は日本ハム、ロッテ、楽天、西武が1位で指名したが、ロッテが指名権を獲得し、入団が決まった。ロッテは2019年から吉井理人が投手コーチに就任していた。吉井コーチは筑波大学大学院人間総合科学研究科で川村卓准教授に師事し、2016年に修士号を授与されている。大学と大学院の違いはあるが、大船渡の國保監督とは同窓、同門ということもできよう。
入団後も慎重に育成されていた佐々木朗希
ロッテに入団したのは佐々木朗希には幸いだった。吉井投手コーチは、佐々木朗希を慎重に育成した。1年目の2020年は二軍戦も含めて1試合も登板せず。一軍に帯同して吉井コーチの指導を受けた。
2年目の2021年4月2日、ヤクルト二軍球場で実戦デビュー、二軍では5試合で20回を投げ防御率0.45という圧倒的な成績を残し、5月16日の西武戦で1軍デビュー。
その後も中10日前後の登板間隔で起用し、最終的に11試合3勝2敗63.1回68奪三振、防御率2.27という好成績を残したのだ。
そして今年、満を持して佐々木は開幕から一軍投手陣に名を連ね、開幕3戦目の楽天戦で先発。3試合目の登板で「完全試合」という偉業を達成したのだ。
佐々木朗希をめぐる3年間の「物語」を振り返って、筆者は2つの「疑問」が湧いてくる。
一つは「何のために野球をするのか、教えるのか?」ということだ。
多くの識者や高校野球関係者は、甲子園出場のために佐々木に無理をさせなかった國保監督を非難した。しかし、高校生はそのあとの人生のほうがはるかに長いのだ。高校野球は「部活」であり、「部活」は教育の一環であるはずだ。教育とは、子供の未来へ向けて「生きる力」を身につけさせるために行うもののはずだ。
将来に禍根を残すリスクを冒してまで強行すべきものなのか?「甲子園は至上のもの」「甲子園で燃え尽きれば本望」というのは、一部の大人の価値観であり「教育」の本分とは相容れないのではないか?
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