「佐々木朗希の快挙」で思い出す3年前のあの騒動 日本野球における選手育成のあり方とは何か?

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もう一つは「野球の知見とは何なのか?」ということ。國保監督はスポーツドクターに佐々木の総合的なコンディションの診断を仰いだが、これは特段珍しいことではない。今や小中学から大学まで、多くの選手がクリニックに通い、自分の体の状態をチェックしている。優秀なクリニックには全国から選手や保護者が集まっている。「野球障がい」のメカニズムはほぼ解明され、治療法は日々進化している。

しかし指導者、専門家の中には、野球医学の現況をまったく知らない人がいる。「良いフォームで投げれば何球投げても壊れない」という荒唐無稽な意見をいう専門家もいる。

さらに言えば、投手の肩肘の問題を知っていれば、今の甲子園の予選、本大会のような過密なスケジュールもありえないはずだ。

いやしくも「指導者」「専門家」の看板を上げる人たちが、なぜスポーツ医学の最先端の知識を学ばないのだろうか? なぜ最新の「知見」を共有しないのだろうか?

完全試合を達成した佐々木はまだ未完成

佐々木朗希の「完全試合」は、3年前の登板回避の「伏線回収」ではない。単なる通過点のエピソードにすぎない。20歳の佐々木の未来は、はるかな未来に向けて広がっている。すでにMLBでは「大谷翔平以上」として注目し始めた。

2020年2月のキャンプでの佐々木朗希投手(筆者撮影)

日本列島が新型コロナ禍に覆われる直前の2020年2月、石垣島のロッテの春季キャンプには、千葉県からのツアー客がやってきていた。ブルペン近くで年配の男性が怒っている。筆者を関係者と思ったか、「なぜ佐々木朗希は投げないんだ。せっかく来たのに」と言った。

「投手は毎日投げるわけではないんですよ。決められた間隔で投げます。佐々木は、新人なのでこのキャンプでは投げないと思いますよ」

と言うと、「若いうちはどんどん投げさせんといかんじゃないか。甘やかすとろくなことにならんぞ」と毒づいて去っていった。

当の佐々木朗希はサブグラウンドでキャッチボールをしていたが、その大きな背中を見つめながら、筆者は「日本野球の重苦しさ」を感じていた。

佐々木の大活躍が、暗雲を払ううえで何らかのエポックになればと思っている。

(文中一部敬称略)

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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