習近平の下では、武力を背景に統一を進めるより強制的な「平和統一政策」への転換がささやかれている。それは民主進歩党率いる台湾が統一を選択する可能性がほぼなくなったことと、中国の国力増大に伴う自信が強まったことによる。実際に戦闘に至ることはないとはいえ、武力を背景に統一実現を目指すのだから、交渉を主とする従来の「平和統一政策」の枠組みから外れる可能性がある。近年、台湾有事への懸念が高まったのはこのためである。
ウクライナ戦争の教訓は何か
台湾有事への懸念が高まる中、2022年2月24日、ロシアがウクライナに全面侵攻を開始した。ところが、ウクライナ戦争は、かえって武力に恃む下策の危うさを世界に示しつつある。中国は、ロシアによるウクライナ侵攻を事前に知っていたと推定されるが、まさかロシアの軍事行動がこれだけ劇的に失敗し、第2次世界大戦以来最悪の人道危機を欧州にもたらし、プーチン大統領が「世紀の大悪人」になるとは、想定していなかっただろう。もはやロシアには、よくて「惨勝」、悪くて「惨敗」しか残っていない。
しかも、ロシアの武器があまり有効ではない一方、アメリカに武器と情報を提供された軍隊は、予想外に善戦できることが判明した。ロシア人将兵の士気が低い一方で、祖国防衛のため戦うウクライナ軍民の士気は高い。これほどまでに激しい戦争を経た後、ウクライナが屈服し、ロシアとの統合を選択することはないだろう。
同様に、中国による侵攻を受ければ、それは台湾にとって決して妥協できない「事実上の独立戦争」になりかねない。軍事的観点から見て、中国の対台湾武力行使のハードルはかなり上がったとみることができる。
もう1つの重要な教訓は、国際社会が団結して対ロシア制裁を矢継ぎ早に打ち出したことである。プーチン大統領を初めとした政権幹部の海外資産は凍結され、世界の金融機関の送金業務を担う国際銀行間通信協会(SWIFT)からの除外やロシア中央銀行の外貨準備凍結など、強力な制裁が実現した。
制裁で直接ロシアの軍事行動を止めることはできなくても、ロシア国内は動揺している。もしも制裁が長期化すれば、おそらくロシア国民は、今後数世代にわたって世界の発展から取り残されるだろう。
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