中国が「対台湾武力行使」を簡単には起こせない訳 ウクライナの反撃、ロシア経済制裁を目撃した今

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中国の経済規模はロシアの約10倍である。世界が中国に依存しているのと同様に、中国も世界に依存している。中国が台湾に全面侵攻した場合、類似の経済制裁が加えられる可能性があり、それは一定の効果を持つ。体制内エリートの多くが、財産と家族を海外に置いていることからみて、個人や企業をターゲットとした制裁も一定の効果を持つ。何よりも台湾の武力統一がたとえ実現できたとしても、その結果、経済が大打撃を受ければ共産党の統治が大きく動揺する可能性がある。

制裁によるロシアの弱体化がカギとなる

中国はこうした教訓を得ながらも表面的には異なる言説を流すだろう。「核兵器で威嚇すればアメリカは手を出せない」「中国経済は巨大で、対中制裁など不可能だ」「武力統一作戦なら、軍民の士気は高いはずだ」「一時的に制裁を受けても、迅速に既成事実を作ればよい」などである。なぜなら、中国はロシアの失敗と衰退によって台湾独立派が勢いづくのを恐れるからである。

当局の行う宣伝が影響力を持つ中国では、こうした言説を信じるものもいるだろう。しかし、強固な情報統制がある中国でも、知識人を中心にロシアのウクライナ侵略の実態は知られつつある。まず制裁を通じてロシアが高い代償を支払うことで、「ウクライナ侵攻はプーチン政権の終わりの始まりだった」というナラティブが広まる可能性もある。

中国人は、今後長期にわたってウクライナ侵略に踏み切ったロシアの凋落を目撃していく。経済は破綻・縮小し、政府関係者は国際社会で孤立し、国際的なイベントなどからも排除される。制裁強化によるロシアの中長期的弱体化は、将来中国が武力行使をする際の後ろ盾を失わせると同時に、中国の対台湾武力行使を思いとどまらせる強い警鐘となるのだ。

中国にとって、「平和統一政策」はいまだに現行の政策である。「平和統一政策」があってこそ中国は「平和発展戦略」を続けられるのだ。中国にとって、武力に頼る対台湾政策よりも、経済的交流を通じて台湾独立を阻止し続けるほうがはるかにリスクは低い。中国指導部にこのことをきちんと理解させるためにも、日本を含め、関係諸国は対ロシア制裁を貫徹する必要がある。

(松田 康博/東京大学東洋文化研究所教授)

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