リニア新幹線と「野生生物」の何とも気になる関係 JR東海と静岡県の「対話」、沢枯れめぐる議論

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3月24日の会議で、県の専門部会委員(手前)に向かって説明するJR東海の担当者ら。左は澤田尚夫・中央新幹線推進本部副本部長
インタビューに答える島田知彦准教授(撮影:河野博子)

静岡工区の沢筋に棲む生物への影響と並んで、心配されているのが、地下水位低下に伴う植生への影響。特に、登山者が楽しみにしている南アルプス稜線のお花畑に影響が出ないかについて、一般の関心が高い。

JR東海は調査分析を実施予定

JR東海は3月の会合で、南アルプスの稜線部にお花畑、池、湧き水があるのは、「(雨による)表流水の循環によるものではないか。地下水は深いところにあり、(表層の)植生にはつながっていないのではないか」とする見解を繰り返した。それを科学的データにより示すため、表流水や深いところの地下水を採取し、成分分析を行うと述べた。

県の専門部会委員からは、科学的な判別の方法や統計的な手法について質問が続いたが、JR東海は「表層水と深層の地下水がつながっている、いない、ということを判定できるとわれわれは考えている」と自信を示した。

3月の会合の後、静岡県の難波喬司副知事は「今回のJR東海の説明はわかりやすく、問題を隠さずに正面から向き合い、対策を考える姿勢に変わった」と評価しつつ、「ただそれが有効かどうかは、これからの議論。影響の回避、低減については、どのレベルで抑えるか、議論が必要だ」と述べ、県が着工を許可するかどうかは、今後の議論次第とクギを刺した。

生物多様性、自然生態系への影響のほかに、大井川の水量など水資源への影響については、今月中に別の専門部会が開かれる。

国土交通省によると、国の有識者会議に生物多様性や自然生態系の保全に詳しい専門家にも参加してもらい、検討に乗り出す予定という。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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