《プロに聞く!人事労務Q&A》私傷病による休職者が復職する際、産業医の診断結果を復帰条件とすることはできますか?
この就業規則によりますと、当該社員は、休職期間(上限1年)の途中において、体調が回復したので、「復職願」に「主治医の診断書」を添えて提出したことになります。
この後の会社の対応としては、当該休職の原因となった事由の消滅の審査をし、復職が可能か否かの判断をしなければなりません。質問の文中に、「弊社としては、安全を期すために」とあります。
「安全を期す」とは、どのようなことを意味するのか詳細が不明ですが、私傷病が具体的に「メンタルヘルス不調」であった場合には、従前の職場に戻って休職前に担当していた仕事を100%こなせるかどうか、場合によっては、会社は仕事量の軽減や配置転換も考えなくてはならないか。また、復職後に疾病が再発して欠勤や再休職ということにならないだろうかなど、さまざまなことを懸念しているものと考えることができます。
復職判断における「治癒」の定義は、法令に定めがあるものではなく、労使間の任意の取り決めになりますが、前掲の就業規則にはこの定義が記載されていません。よってここで断定することはできませんが、一般的には、従前(休職前)の仕事を通常の程度こなせるまでに心身共に回復していることを基本とする考え方で対応しているようです。
さて、産業医の受診命令についてですが、就業規則(第3条第2項)には、「会社は必要に応じて、指定する医師(産業医等)の受診を命ずることがある。」と記載されています。よって、主治医の診断書の提出があったとしても、産業医等の受診を命ずることは可能です。そして、当該診断結果は会社が職場復帰の判断をする重要な情報の1つとなります。
主治医は、患者のために治療する責任があり、基本的には患者のために行動します。これに対して産業医は、会社との雇用契約または準委任契約により、医師法による中立性と独立性を保障されつつ、社員の職務遂行能力を評価する役目があります。よって、会社が、安全を期し、より慎重に復職判断をしたいと望むのであれば、産業医等の診断を復職判定の手続きに加えることはたいへん有益なことと考えます。
時には、主治医と産業医等の診断結果が異なる場合があります。この場合は、復職判定会議などを設け、双方の診断結果および関連するさまざまな情報を集め、整理・加味したうえで、最終的に、会社が職場復帰(または職場復帰不可)などの発令をすることになります。
1980年東洋大学経済学部卒業。IT関連会社で営業、人事労務及び派遣実務に従事した後、91年に独立し半沢社会保険労務士事務所を開設。就業規則をベースとした労務相談を得意とする。企業や団体での講演・講義も多い。現在、東京労働局紛争調整委員会あっせん委員、東京都社会保険労務士会理事等を務めている。著書多数。
(東洋経済HRオンライン編集部)
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