グローバルM&Aによる事業拡大には世界レベルでの経営戦略を策定する仕組み作りが重要--松枝寛祐・大陽日酸会長
アメリカについては、Nation−Wideの事業展開を行い、世界一の産業ガス市場であるアメリカにおいて確固たるプレゼンスを築くという長期ビジョンを掲げ、その目的に沿った戦略の中でM&Aを実行してきました。そして、83年に買収した特殊ガスのMatheson社と、92年に買収したTri−Gas社を99年に統合し、Matheson Tri−Gas社としてアメリカでの事業展開の核としました。2000年以降、他社の販売網やディストリビューター(小分け充填・配送業者)を買収することで需要を確保し、その需要をベースに自社プラントの建設を行い、さらに自社プラントの周辺へ拡販を行うことでさらに事業を拡大させるという、事業拡大のサイクルをうまく回すことが可能となり、アメリカ国内のネットワークが拡充していきました。これらの製造から販売までを見据え、地域的な需給状態を勘案しながら、M&Aによる買収を基本戦略とし、アメリカ国内への浸透を図った結果、当社はアメリカにおいて250カ所以上の拠点を有するに至りました。
主体的なターゲット企業の選定
次にターゲット企業の選定についてですが、アメリカを例にとると、当時、中西部はわれわれにとって空白地帯でした。そこを埋めるための買収候補として挙がっててきたのがLinweld社であり、オーナーが年齢的な理由で引退をしたいという機会をとらえ、競合他社に競り勝って買収にこぎ着けました。そのほか09年に売り上げ規模で300億円以上の、アメリカ最大の独立系ディストリビューターであるValley National Gases社を買収しました。これらは、われわれのアメリカにおける子会社のトップマネジメントやマーケティング部隊が、買収先企業の経営者と良好な人間関係を築きながら買収にまで持っていったケースであり、子会社のアメリカ人の能力・人脈がフルに活用できた1つの例だと思っています。
各国の状況に応じた柔軟な対応
アジアについては、先ほど申し上げましたとおり、シンガポールでのNational Oxygen社の設立ということで、まずはジョイントベンチャーから始めましたが、同社は03年には100%子会社化しました。
フィリピンではIngasco社という会社があり、こことはもともと80年代に小型のプラントを納めたのがきっかけで、それ以来同社のトップとはいい人間関係を築いてきました。そして、同社から資本参加の話が浮上し、94年に17%の資本参加という形で合弁事業をスタートさせました。その後、97年のアジア通貨危機の影響を受けた同社への追加出資(新株引き受け)により、当社が過半数を握るという格好で経営権を取得するに至りました。その後、大手ディストリビューターからの出資受け入れを行うことで事業基盤を強固なものとし、さらには事業意欲・資金余力のなくなった創業パートナーの持ち分買い取りを行ったことで、現在では当社が70%を保有する子会社となり、フィリピン国内では40%近いシェアを取ることができています。