グローバルM&Aによる事業拡大には世界レベルでの経営戦略を策定する仕組み作りが重要--松枝寛祐・大陽日酸会長
■アジアにおいても経営主導権を握る形での進出が重要
一方、撤退したケースもあります。1つの例としてマレーシアのNissan−IOI社についてご説明したいと思います。88年にIOI社の経営者から当社に要請があり、当社の持ち分が30%の合弁企業としてスタートさせました。そのとき、社名をNissan−IOIにして社長を派遣しました。IOI社は本業が工業ガスではなく、プランテーションやそれに基づく下流ビジネスに大変興味を持っているほか、不動産業も営んでいました。Nissan−IOI社のパートナーから、それらの資金を得るために上場したいという提案があり、マイノリティ出資の当社としては受けざるをえず、Nissan−IOI社はIPOをしました。これにより当社の持ち分は20%に低下したのです。さらに、パートナー側がより大きな資金需要を抱えるに至って、ついに同社株式の全額売却を提案してきました。ちょうどこの頃の日本はバブルがはじけて大変厳しい状況が続いており、当社もバブルの負の遺産の整理を行っていた時期でもあり、02年にはやむなく合弁事業を売却する形で撤退するに至りました。
現在は、シンガポールのNational Oxygen社を活用しながらマレーシア市場への再参入を図っており、当時の売上高を超える実績が達成できるようになっておりますが、いずれにしろ、マイノリティ出資ではパートナーの戦略によってわれわれの事業は大きく左右されるということです。アメリカでは100%買収が可能でしたが、アジアでは外資規制の問題で100%の買収はできなかったこともあり、そういう中でどうしたら市場参入ができるか。いろいろな対象企業を選んで進出したのですが、マイノリティオーナーの宿命といいますか、やはりマジョリティオーナーの戦略に振り回されてしまいます。自動車に乗るならどうしても運転席に座るべきだと思います。後ろのパッセンジャーシートに座っていると、運転手によっては、どこへ連れていかれるかわかりません。そうすると予期しない場所に連れて行かれそうになり、途中で降りざるをえないというような意味で、アジアにおいても経営主導権を握るような形での進出が重要ではないかと思います。さもないと、せっかくの努力が無にされてしまうケースが出てくるというのがわれわれの教訓です。
中国、インドなどへの進出
次に、アジアの中でも中国の例をご紹介すると、中国では86年に北京駐在員事務所を最初の尖兵として開設し、市場成長の兆しの見え始めた中国への進出機会を狙っていました。海外メジャーの進出によりすでに競争状況が厳しくなっていた上海・華東地域よりも、重工業を中心に潜在的な成長性の高い東北地区をターゲットに定め、93年に大連で国営企業との合弁で大連大陽日酸を設立しました。03年には、現地の液晶メーカーに対するガス供給をベースに上海大陽日酸を設立、05年には、蘇州大陽日酸を設立するなど、中国でも事業展開を進めています。