グローバルM&Aによる事業拡大には世界レベルでの経営戦略を策定する仕組み作りが重要--松枝寛祐・大陽日酸会長
それではどうするかというと、1つは、固定化して一人の人間を出したら10年、20年そこで赴任してもらうという方法です。あるいは、赴任している間にいち早く現地の人材を育成して、その任に耐えるような形にすること。場合によっては、ヘッドハンティングして据えるという形もあります。しかしヘッドハンティングも大変難しい面があります。産業ガス業界以外からの人材だとどうしても業務知識については理解が薄くなってしまいますので、同業他社からの引き抜きという形になってしまい、難しい問題も出てきます。やはりローカル人材をいかに育成強化していくかというのが、非常に大きな課題です。
中国は人口が多いし、人件費も安いので優秀な人材を集めるのは、簡単そうに思うかもしれませんが、これがなかなか難しいところです。優秀な中国人は極めて上昇志向が高いのです。したがって、会社に採用される際も、それが1つのキャリアパスになるかどうかが彼らにとっての重要な関心事項です。そしてどれだけの知識が得られるか、能力を得られるか。給料はどうか。なかなか日本企業は思い切った高給を払うことができない中で、こういった人材をいかにリクルートしていくかは、なかなか難しいというのが今までのわれわれの実感です。
経営の基本方針の浸透
次に、経営の基本方針の浸透についてお話いたします。われわれ産業ガスメーカーは、取り扱う製品が高圧であったり毒性を持っていたりと、いろいろとリスクが伴っています。よって基本にあるものは、つねに安全と保安です。アメリカでは、日本からの保安監査を継続することでかなり改善してきていますが、こういった安全に対する認識が薄い部分がどうしてもまだ存在します。安全・保安を第一に挙げ、これがガスの安定供給の基盤であるということを徹底的にたたき込んでいくと同時に、製造技術、品質管理、デリバリーの管理をしています。
当然のことながらアジアにおいても、法令順守は避けて通れません。また、日本の企業に少し薄いのが個人の役割、任務の明確化、言ってみればジョブディスクリプションをどれだけ明確にできるかということ。これは、世界共通の課題になろうかと思っています。
それから、処遇の公平性も重要な課題です。たとえば雇用形態はアメリカ、日本、アジアの各国でそれぞれ異なります。日本において特にわれわれの業界では、一部中途採用もありますが定期採用をして年次管理をしていく形を採用していることが多いと思います。一方でアメリカでは、自分の部下はマネジャー自身が採用できるという権限を与えています。そうすると、マネジャーの意見が結構反映されることになりますので、その中で処遇の公平性がないと不満やいろいろな問題へとつながっていってしまいます。やはり処遇の公平性というのは、世界どこへ行っても極めて重要な課題かと思います。いずれにしても、先ほど申しましたように日本、アメリカ、アジアでは、言葉が違う、文化が違う、ビジネス慣習が違います。そういったあらゆる生活の基盤が違っているということをまず認識したうえで当社の経営基本方針を出していくことが重要だと思います。