グローバルM&Aによる事業拡大には世界レベルでの経営戦略を策定する仕組み作りが重要--松枝寛祐・大陽日酸会長
また、アジアの中でも韓国とインドは違う形で事業展開をしているので、その例について一言触れさせていただきます。韓国では、95年に米国子会社のMatheson Tri−Gas社が韓国のサムスンをはじめとする半導体企業向けに特殊ガスを製造・販売する目的で、Matheson Gas Products Korea社を設立しました。インドでは、同じくMatheson Tri−Gas社の特殊ガスおよびヘリウムのディストリビューターであったK−Air社を買収し、Matheson K−Air社を設立しました。これは、国や地域によっては日本人が直接やるよりも、アメリカ人を活用したほうがよい場合もあるということで、アメリカの子会社をうまく活用した例といえるのではないかと思います。
■M&Aをした企業の有力人材をいかに活用し、育成するか
次に、ポストM&Aの注意事項やわれわれが苦労した点についてお話させていただきたいと思います。いろいろな方がおっしゃるとおりですが、いかにガバナンスを確立するかという課題があります。そして、いかに早い時間で買収のシナジーを上げるか。あるいは統合効果を実現させるか。さらには、それを実現するに当たってM&Aをした企業の有力人材をいかに活用し、さらに育成するかということが極めて重要になってくるのだと思います。そこでベースとなるのが、大陽日酸の経営の基本方針をいかに買収先、あるいは設立先に浸透させていくかということ。これが重要になってくるのだと考えます。
ガバナンスの確立
まず、ガバナンスの確立ですが、アメリカのMatheson Tri−Gas社は、先ほど申し上げたようにすでに約10億ドルの売上高を達成する会社に育ってきているので、当社におけるインパクトや影響も非常に大きくなっています。現在、Matheson Tri−Gas社のボードには、私を含めて3人の当社代表取締役が名を連ねています。投資案件のほか、いろいろな戦略について密に連絡を取り合っていますし、同社のアメリカ人CEOは、大陽日酸の取締役を兼務し、取締役会にも参加させています。そういう意味で、影響力が大きい子会社のガバナンスについては、最大限の努力を払いながら進める必要があると思っています。現在のところ、この体制が大変うまくいっており、アメリカにおける買収もアメリカ人のトップが中心になってやっていますし、当然ながら、大きい案件は逐一指示を出しながら進めています。このようにMatheson Tri−Gas社については、事業本部に属するという形をとらず、経営の直轄とし、ガバナンスを本体のトップが関与し、責任を持ってやるという形にしています。