C-2の「売り」のひとつは他の戦術輸送機よりも早く、ジェット旅客機並みの速度で民間旅客機の使用するルートを飛行できることとなっているが、重量が増加すれば当然速度も低下する。そうなればセールスポイントの一つが無くなることになる。
防衛省の内局では性能低下をあきらめて早く実用をすべきだという意見もでている。そうすれば開発費や製造コストがこれ以上は上がらないだろうからだ。だが空幕はメンツもあり、性能低下を許容したままの実用化を拒んている。C-2は現在平成28年度の実用化を目指しているが、それが実現するかどうかは予断を許さない。
そもそもC-2をめぐっては、おかしなことが多い。空幕は東日本大震災補正予算でC-2を2機、約400億円で調達した。震災などの緊急時にはC-2が有用との理屈からだが、当時からC-2の開発は遅れており、震災の補正予算という緊急予算で要求する必要性はなかった。そもそもこのような装備は防衛省の本来の予算で要求すべきものだ。
不整地で運用できないC-2が被災した直後の仙台空港のような環境で運用できない。当時空自の松島基地に強行着陸したのは米特殊作戦軍団のMC-130輸送機で、あり仙台空港におりたのは米軍のC-130H輸送機などだ。彼らはこのような非常時でも離着陸を可能とする機材とノウハウを有している。補正予算で要求するならば、そのような組織や機体を調達すべきであった。震災の補正予算で輸送機を要求するならば、少なくとも空自の保有するC-130Hのこのような事態に対処できる近代化や、すぐに入手できる中古のC-130シリーズの調達を行なうべきだった。
空自のC-2要求は被災者に必要な支援予算を「軍部」が組織的に掠め取ったようなものであり、被災者を喰い物にしたようなものだ。倫理面からも到底許せる所業ではない。それに異を唱えなかった政治家たちの見識も疑われてしかるべきである。
YS-11の悪夢の再来になる可能性も
仮にC-2の民間転用機が数機しか売れなければ、開発コストが利益を上回るし、売れた機体のサポートを最低30年程度は行わなければならない。実際、我が国の航空産業は戦後初めて開発したYS-11が思ったほど売れず、そのサポートをコスト割れで行ってきた。その悪夢の再来となる可能性は極めて大きい。
しかも売り込みに際しては、営業コストもかかるのだ。どんなにひいき目にみても、ビジネスとして成立する余地はない。
川崎重工はパリやファンボロ-の航空ショーで長年SJAC(一般社団法人 日本航空宇宙工業会)のパビリオンの自社ブースでC-2輸送機の民間転用機に関する展示を行っているが、権限を持った重役が控えているわけでもなく、真摯に営業を行っている様子はない。実際、筆者が取材する限り、川崎重工の関係者も民間転用機がビジネスと成立する可能性はほとんどないと認めている。
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