では、なぜ、川崎重工の関係者は、あたかも民間転用機が売れるように振る舞っているのか。それは国が掲げている政策に従わねばらない事情があるからだろう。厳しい財政環境の下、防衛費の増額は非常に難しく、防衛装備品の調達単価は年々上がる傾向にある。しかも装備品の高度化に伴って維持費・整備費用が増加し、新規の装備調達予算を圧迫している。
このため防衛・航空の技術基盤を維持するためには自衛隊向けに開発された航空機などの輸出によって、開発や生産コストを低減する方法を模索している。川崎重工はその「お上」の方針に従っている「ふり」をしなければならないわけである。また筆者が取材する限り、防衛省や経産省の現場でも、C-2の民間転用機が輸出できるなどと信じている人物はいない。
航空産業の関係者ならばC-2の民間転用が非現実的なのはよく理解しているはずだ。ところが多くのメディアは政府や防衛省、メーカーなどの発表を疑いもせず、そのまま報道する。その好例が2007年7月3日付けの日経新聞1面。この記事ではC-2について、「競合するボーイング、欧州エアバスが旅客機を転用しているのに対し、トラックをそのまま積めるなど積載能力が高い」とある。
この記事を書いた記者はC-2のライバルがA400Mやイリューシンのランプドアをもった軍用輸送機であるというごく初歩的な知識もなく、C-2のライバルがボーイングの767や747などの通常のジェット旅客機を転用した民間用輸送機と誤解している。つまり専門知識がまったくない。このようなレベルの記事が日本を代表する経済紙の一面に掲載されてしまうのだ。
軍用機としての輸出も困難
では軍用輸送機としての輸出はできないのだろうか。軍用機であれば耐空証明を取る必要はない。実際にUAE(アラブ首長国連邦)などから打診が来ているという。だが、先に述べたようにC-2は不整地の滑走路で運用できない。これは戦術輸送機としては致命的な問題である。
またオフセットの問題もある。軍の装備の輸入に関して、輸入国からは見返りとなるオフセットを輸入金額の一定パーセンテージ要求される場合が普通である。これにはその装備の一部の生産など生産や技術移転を要求する直接オフセットと、その装備を輸入する代わりに、輸入国の輸出したい物品、例えばりんごやワイン、鉄道など、直接関係ないものの輸入や、その国に対する投資などを要求する間接オフセットに大きく分けられる。
前者の場合は対応可能だが、後者のような間接オフセットは防衛省や経産省だけでは対応が難しい。そもそも我が国は武器輸入大国でありながらオフセットを行使したことがない。それは他国では当たり前の、装備の調達では必要とされる数量、調達期間、予算総額が議会で承認されるシステムが取られていないからだ。これは世界的に見て極めて奇異であるだけではなく、予算管理上が事実上されてないことを意味する。
プロジェクトの総額と期間が分からなければ、輸入額のパーセンテージに相当するオフセットの設定も、それをいつまでにそれを履行するかも決定できない。このためオフセットの行使ができなかったので、オフセットに関するノウハウを持ち合わせていない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら