「たのしい」「つながる」「べんり」の可能性
――IT教育は、教育自体の改革につながるのでしょうか。
「19世紀の外科医が今の手術室にやって来ても、何ひとつ仕事ができないだろう。医療はこの150年で大きく進歩した。しかし、19世紀の教師がやって来たら、きっと何とかやっていけるだろう。教授法はこの150年で変化していないからだ」
と、私が以前所属していた、教育とコンピュータに関する世界的権威であるMITメディアラボのシーモア・パパート教授がよく話していました。
農耕社会から工業社会に切り替わる際、学びは一度大きく変わりました。江戸から明治になり、教育も西洋化するにつれ、寺子屋が小学校になり、黒板や教科書を活用した年齢別のクラスでの、一斉授業という授業形態が採用されました。
このシステム化された授業形態は、工業型社会において優秀な労働者を多量に輩出することには適していました。知識が一方向に多数の生徒へ伝達されるシステムは、均一化された労働者を作り上げるには最適だったのです。
しかしそれから約150年、シーモア・パパート教授が指摘するように、学びは大きくは変わってきませんでした。しかし、工業社会から情報社会に切り替わった今、それにふさわしい教育が求められていると思います。そのきっかけになりえるのが教育の情報化だと思います。
――ITが教育に入る、より短期的・直接的なメリットはあるでしょうか。
「たのしい」「つながる」「べんり」の3点があるとよく申し上げています。
「たのしい」というのは、たとえば理科の天体や算数の図形など、紙では説明が難しいことを映像でわかりやすく楽しく伝えることができます。また、学んだ内容をプレゼンするなど、自ら作って表現する創造力・表現力を養うことができます。
「つながる」というのは、教室でも校庭でも先生・生徒とつながって、教え合い、学び合うことができます。今まで学校では、手を挙げる子どもしか指されませんでしたが、全員がタブレットを持ってつながっていたら、手は挙げられないけれどいい意見を持っている子が発表をすることもできます。また、学校、家庭がつながり地域で学ぶ環境ができ、もちろん世界のどこにいても学習することができます。
「べんり」というのは、個人の学習進度に合わせた学習が可能となります。たとえば、小学校3年生でも、進んでいる子には4年生の問題を出してあげ、遅れている子には2年生の問題を出してあげることも可能となります。テストの採点も機械ができる部分は自動化することで、先生は採点の時間を生徒と向き合う時間に充てることができます。
それこそが、これまでのように先生が持っている知識を一斉に一方的に生徒に伝達し、記憶・暗記で評価をする学びから、21世紀型の学びに変わるということを意味すると思います。
みんながつながって、双方向に教え合い学び合う。多様性を尊重しつつ個に応じた学習ができる。異なる背景や多様な力を持つ子どもたちが、コミュニケーションを通じて協働しながら新たな価値を生み出すことができる。そんな学びの場をデジタル技術が、可能にするのです。
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