最後の「製品ではなく社会的役割から市場を考える」ですが、龍角散のオリジナル製品は風邪薬の代替的な形で使われましたが、「のどを守る」という広いコンセプトでマーケットを新たに捉えます。クララを捨て、ブランド力を強化する一方でのど飴や服薬ゼリーにまで製品群を拡大します(「龍角散ののどすっきり飴」は2年で4倍増の大ヒットを記録)。
服薬ゼリーは、アイデアが社内で提起された時、大反対の嵐でした。しかし離れる戦略のひとつ、「顧客の生の声を集めてトップが直接触れる」の方針から、介護や服薬の現場に藤井社長自ら足を運び、寝たきりの患者さんが薬を飲むことに苦労する場面を何度も目撃します。
この実体験から社内の反対を押し切り、1998年に世界で初めての服薬補助ゼリーを開発、世界35カ国で特許を取得する製品となります。現在では年間約30億円の市場規模、同社の新たな主力商品に成長しました。
最高売上の現状からも離れ続けよ!
服薬ゼリーは当初、介護施設で高齢者向けに導入されましたが、現場の医師から「幼児も使えるよう味を改良してほしい」との要望が寄せられ、幼児市場の存在に気づきます。
その結果、小児科でも広く利用され小さな子どもを持つ両親の、服薬の心配や不安を減らす製品として広がります。子どもの退院後も使用したいという声から、市販化されたのが2002年。テレビCMと同時に、店頭で欠品が相次ぐほど売れ、大きな話題になります。
「介護・高齢者」「幼児」の2つの年齢層で服薬ゼリーは大きな市場を獲得。これで完了だと思った社内に、藤井社長はもっと市場は大きいはずだ、と強い指示を飛ばします。データを仔細に分析し、40代後半以降にも別の服薬市場があることがわかり、新製品を発売。その結果、同社の服薬ゼリーは売上規模が2倍近くまで伸びました。
本記事では龍角散の藤井社長にインタビューを行いました。2013年度は売上高69億円、2014年度の予想は80億円と、就任時から2倍の規模に達する今、同社は新たに「現在の成功体験から離れる」ことを最大の目標としています。20年前は財務上の危機でしたが、現在は成功による慢心の危機を迎えていると藤井社長は指摘します。
「制度や優遇措置、経済情勢に依存するな!」と社長自らが檄を飛ばし、上のリーダーシップに頼るのではなく、自律的に社内から新しい成長ができる体制を目指し、社内で新規事業や改革のアイデアを社員自身が出すことを強く奨励する、新たなステップへ歩み出しているのです。
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