倒産の危機から、売上高2倍の龍角散 新社長が徹底した「離れる戦略」の秘密

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もうひとつはブランドの問題。「龍角散」の全国的な知名度をすべて捨て、信頼ゼロから立ち上げ、なおかつ競争の激しい分野に進出すれば、経験したことのない厳しい状況に逆に翻弄されたであろうこと。

藤井新社長の強い危機意識が伝わらない社内。伝統薬だからなんとかなる、これまでも乗り切ってきたのだから、今度も大丈夫など、根拠の薄い楽観論が支配していました。過去の成功体験に酔い、未来を創り出す気概をすっかり失っていたのです。

他社から買収の提案まで来る状態で、形骸化した過去の成功体験から「離れる戦略」を藤井社長は開始します。

「離れる戦略」を支えた3つの要素

改革について、あらゆる反対を受けた藤井社長は、一切の責任を引き受ける形で大転換を決断します。社内の古い常識、過去の発想から離れるため新たな道を選びます。

【離れる戦略を支えた3つの要素】

○顧客の生の声を集めてトップが直接触れる
○社員全体を説得するのは諦め、小さなチームで挑戦を始める
○製品ではなく社会的役割から市場を考える

最初に、顧客の生のデータにトップ自らが触れることを始めました。売れないと嘆く社内ではなく、古くからの愛用者がなぜ龍角散を買ってくれるのか、愛用者アンケートや直接のヒアリングなどを実施したのです。

結果、わかったのは、オリジナルの龍角散には驚くほど信頼を寄せる愛用者がおり、お店になければ(ほかの品を買わず)、あらゆる店を回って探すと回答した人もいたほどでした。伝統を守る姿勢にも高い信頼を得ており、誠実な会社とのイメージを持つ消費者が多かったのです。これは裏切れないと、藤井社長は思いを強くします。

2つ目は小さな社長直轄チームを作り、新規の挑戦と路線変更をこのチームに集中させて実施したことです。役員会全体、社員全員の説得に時間を費やすのをやめ、信頼関係の強い小チームにまず行動させて、直轄チームの試行錯誤から新たな成功事例を生み出すことが狙いでした。

3番目は、製品としての龍角散(パウダー)ではなく、担うことができる社会的役割から市場を考える、という発想の転換です。のどを守るための製品は、その役割を果たせるなら、オリジナルの40代後半から50代以降のユーザー層だけではなく、広くあらゆる世代に使ってもらえるはずだ、という新前提に立ったのです。

また若者向けのトライアル製品だった「クララ」という旧製品を廃止。龍角散のブランド名を冠しておらず、広告宣伝の量に比例して販売数が少ないデータからの決断でした。45年も続いた同製品の廃止には流通からも抗議が殺到します。

しかし、水なしで飲める新製品「龍角散ダイレクト」を発売し、歌手ポール・ポッツを起用したCMで一気に10代後半の男女までユーザー層が拡大。続く機能訴求のCMでは品切れを起こすほどの人気を博します。

小さな直轄チームが成功を始めると、輪の外にいた社員は不安になり、続々と新事業に参加させてほしいと直訴にきました。藤井社長の方針転換を信じていなかったはずの社員も、新チームの成功を見て次第に改革の輪に加わり、活動を加速させていきます。

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