ハーバード留学後、「日給1800円」の進路とは 青年海外協力隊から留学、そして再び現場へ

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大久保:卒業後の進路決定には、たいへん苦労しました。応募したポストからはことごとく返事をもらえませんでした。ケネディスクールでも、開発の方面へ本気で就職したい人は、3分の1は職が決まらないまま卒業してきます。僕の場合、そうこうしているうちに子供もできてしまい、本当にどうなるかと思いました。そんなとき、毎日足しげく通った学校のキャリアサービスセンターが、ユニセフが夏にネパールで短期のポストを募集しているという情報をくれました。教育事業に携われるならと迷わず応募し、とりあえず現地へいくことが決まりました。初めの契約は2カ月、日給は1800円でした。

石崎:なんと、そんなに低賃金で働かれていたのですか!? 国連職員がアメリカから途上国の現場を訪問する際は、出張費として1日当たり2万円ほど出ると聞いたことがありますが……。

大久保:だから、その10分の1は与えようということなのじゃないですかね(笑)。若いうちは経験を買え、ということなのでしょう。しかし、働きが認められたのか、夏以降もさらに3カ月契約を結ぶことができ、ふつうの給与に格上げされました。さらに、そのまた3カ月延長で契約が決まり、一般的にそうであるように、そろそろ長期の契約が来るのではないかと思っています。国際機関に終身雇用という概念はありません。毎年、自らの手でポストを見つけ、生き残っていかなければいけません。厳しい現場だと感じています。

石崎:本当に厳しい世界ですね。生半可な気持ちでは続けられないということが理解できます。では、現在のネパールでの業務内容、そして今後の展望をお聞かせくださいますか?

離れていても、現場を絶対に忘れない!

大久保:現在は政策アナリストとして、最貧困層の母親向け現金給付プログラムや防災対策プロジェクトなど、ユニセフのこれまでの政策を分析し、新しい政策を効果的に打っていくにはどうしたらいいかを考えています。現地政府との対話などもあり、比較的、現場からは離れたポジションです。

予定だとか抱負だとかを立てたことはあまりないので、今の現場でいつまで仕事をしていくかもわかりません。でも、日々の業務を精いっぱいこなし、邁進していくのみだと思っています。その中で、自分の原点を忘れることのないようにしたいと思います。たとえば、今のように現場を離れ仕事をしていると、大切なものを忘れそうになってしまうときもあります。政府の公舎やパソコンの中に現場はありません。つねに現場のことを思って仕事をしていきたいです。

この業界を目指す人は、僕と同じような悩みに駆られるのではないかと思います。進路決定に際してでも、協力隊で現場に行っても仕方がない、職を得られないといろんな人に言われました。でも、自分が感じることに従っていけばいいと思うのです。僕もたくさん悩んできました。それでも、自分の思うところを大事にしてきました。これからも「自分の鳥肌」で、決断をしていきたいと思います。

インタビューを終えて

しばし、自分の理想と現実がマッチしないことがある。そんなとき、人は頭で考えて、現実を重視してしまうものだ。しかし、大久保さんは「鳥肌」を重視してきた。世界レベルの厳しい競争にさらされる国際協力・開発の分野においても、彼は自分の直感を大事に進路を決定してきた。

世界市場で仕事を見つけていくことは、本当に大変なことだ。それでも、そんな厳しい道程だからこそ、現実以上に自分の情熱や信念を大切にすべきではないのだろうか。少なくとも、そうすれば後に後悔することはないのではないかと思う。 

(お知らせ)
12月27日(土)13:00より行われる早期国際化教育に関するイベントに連載執筆者が登壇します。詳細は、こちらをご覧ください。
石崎 弘典 インド進出コンサルタント

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いしざき ひろのり / Hironori Ishizaki

東京大学文学部フランス語フランス文学専修卒業、米国公認会計士試験合格。
在学中は休学して、パリ大学ソルボンヌに留学、音楽を中心にフランス文化を学ぶ。
現在は、インドの大手会計事務所に勤務し、日系ほか外資企業のインド市場進出支援を、税務・法務・財務の観点から行っている。インドビジネスに関する知識を活かし、メガバンクなど(みずほ、政策投資銀行)が発行するビジネスジャーナルへの寄稿、また政府系機関(JETRO)や外資系銀行(HSBC)などが主催するセミナーへもスピーカーとして登壇している。本業の傍ら、横浜シンフォニエッタ(オーケストラ)の海外事業アドバイザー等、芸術と社会をつなぐエージェントとしても活動している。
 

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