「凡人だから、成功したんや」 知恵を借り、素直に考えることの大切さ

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昭和の大経営者である松下幸之助。彼の言葉は時代を超えた普遍性と説得力を持っている。しかし今の20~40代の新世代リーダーにとって、「経営の神様」は遠い存在になっているのではないだろうか。松下幸之助が、23年にわたって側近として仕えた江口克彦氏に口伝したリーダーシップの奥義と、そのストーリーを味わって欲しい。(編集部)

 

昼食後、真々庵の庭を、2人で眺めていた。松下幸之助のお気に入りの庭である。「この庭は、随分ときれいやなあ。この縁側から見回しても、向こう側に東山が見えるし、それを背景にこの庭があるから、庭が広く見えるわな」。自分の庭を自画自賛していた。

自庭を眺めながら語り合ったこと

「いつか、あれは誰やったかな、ある財界人の方が来たとき、あの径(みち)と、あそこの白砂がいい、と言うていたなあ。門をくぐって、庭に入って、あの径を歩き始める。木々の間の曲がりくねった径を、ものを考えながらゆっくりと歩いて行くと、あの白砂のところに出る。すると、今まで考えていたこと、悩んでいたことの解決策がパッとでてくる。そんな感じがする、と」

で、私。

「そうですね。綺麗ですね。ところで、“松下さんは、成功者”と世間でよく言われていますね」。いつもの庭の話から、話題を変えた。

「うん? 成功したって? あまり成功したということは、考えたことがないけどな。会社が大きくなったということなら、そう言えるかもしれんね。仕事を始めたのは、実際には3人や。それが今では、関係先まで入れたら、数十万人になるやろうな。こんなに大きくなるとは、正直、思わんかったよ。わし自身が驚いているわけや。時折、どうして、こんなに発展したのか、大きくなったかと聞かれることがあることは確かやなね。特に記者さんたちから、質問されるな。けど、よう、わからへんのや、わしにも。

けど、まあ、わしが凡人だったからやろうな。人と比べて、誇れるものはないわね。学校は4年中退や。勉強しとらへん。父親が、米相場に手を出し失敗する、一家は離散する、帰る故郷もない。十人家族やけど、わしが26歳までに、みな、死んでしもた。残ったんは、わしだけや。わしも、20歳のとき、肺尖カタルに罹ってしまった。健康ではない。今もなお、健康とは言えん。

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