残したけどな、不味くて残したんやない

松下が大事にしていた思いやりの心

昭和の大経営者である松下幸之助。彼の言葉は時代を超えた普遍性と説得力を持っている。しかし今の20~40代の新世代リーダーにとって、「経営の神様」は遠い存在になっているのではないだろうか。松下幸之助が、23年にわたって側近として仕えた江口克彦氏に口伝したリーダーシップの奥義と、そのストーリーを味わって欲しい。(編集部)

 

夜、10時とか11時過ぎに松下幸之助の部屋を辞するときには、松下は、もちろん、ベッドに横になっている。

「もう、遅くなりましたので、これで失礼します」と言うと、引き留めていた松下も、「ああそうか、だいぶ遅くなったな。すまなんだ」と言う。そして、ベッドから、起き上がろうとする。

「いえいえ、そのままで、お休みになっていてください。ここで失礼しますから」と言う私の言葉にもかかわらず、松下は、起き上がり、スリッパを履いて、私を部屋の出口まで見送るのが常であった。わずか4~5メートルほど先の扉までであるが、肩を並べて歩きながら、恐縮する私に、話しかけてくる。

「きみなあ、これからわしは、130歳まで生きるつもりや。今、いろいろ考えているんやけど、やりたいこと、やらんといかんことがいっぱいある。なかなか死んでおれんのや。けどね、そのどれを考えても、きみに手伝ってもらわんとできんことばかりなんや。だから、きみ、身体には、十分気ィつけや。わしより、はよ逝ったらあかんよ」

この一言で、私は、感動し1日の疲れがいっぺんに消え去っていった。

あるホテルでの出来事

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東京の有名ホテルで、著名な評論家と世界的に有名なレストランで食事をしたことがあった。彼は、食通としても有名で、グルメ本も何冊か出していた。オーダーした料理が出てきたが、この料理は、あまりおいしくない、値段の割には、手を抜いている、店の名前に、あぐらをかいている、と彼が言い出した。こちらは、食通でも美食家でもない、なんでも食べる鈍感な人間だから、彼の非難誹謗など、まったく感じない。

「そうですかねえ」などと適当に相槌を打っていると、突然に、その評論家氏が、近くのウエートレスを呼んで、「シェフを呼びなさい」と言う。なに事かと思っていると、すぐにシェフが来た。「なにかご用でしょうか」と尋ねるシェフに、彼は、厳しい口調で、私にそれまで言っていたことを、言い出した。そして「こんな料理は、もう、食べたくない。あなたもシェフをお辞めなさい」と言う。こちらは、ハラハラして、なんとか、その場を繕った覚えがある。

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