私が、23年ほど松下幸之助の側で仕事を続けたことについて、多くの人から、どうしてそんなに長く、松下さんが江口さんを寵愛したのかとか、江口さんが優秀だったからなのかとか、尋ねられることがある。それどころか、あり得ない、信じられない「神話」まで、いくつかつくられている。
しかし、私が優秀だったからということは、断じてない。それは、私自身が自覚している。実際、私は、極めて平凡な人間であるし、秀でた能力を持ってはいない。周囲の友人、知人を見ていると、ああ、とてもこの人には及ばないな、この人は、すばらしい能力を持っているな、すごいな、と感じることが、ほとんどである。
“出会い”という幸運
とはいえ、さほど能力のない私を、松下さんが、長く最期まで側に置いてくれたことも事実。自分でも不思議だと今でも思っているが、強いて言えば、一生懸命に仕事や経営に取り組んできたこと、毎年、365日24時間、全力で取り組んでいたこと、それを松下が評価してくれたのではないかと思う。もちろん、多くのビジネスマンの方々も、私以上に、全力で懸命に仕事に取り組んでいる。ただ、その「職場」が、松下の側であった、松下幸之助に「見える範囲内」にいたということだけという偶然の結果ではないか。そういう意味でも、私は幸運な人間だったと言えるのではと、しみじみ感じている。
松下幸之助は、「能力」より、「熱意」を基準に、人を考えるところがあった。たびたび、「熱意」の大切さを話してくれた。
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