「きみも忙しいやろ。休みもあまりないかもしれんが、体には十分気をつけんとあかんよ。わしは、これからも、いろいろなことをしようと思っておるけど、どれも、きみに手伝ってもらわんといかんことばかりや。
けどな、仕事をする、経営をするときに、なにが一番大事かと言えば、その仕事を進める人とか、経営者の人の熱意やね。あふれるような情熱、熱意。そういうもんを、まずその人が持っておるかどうかということや。あれば、知恵が生まれてくる。
経営者には、指導力が大事とか、決断力が大事とか、行動力とか、まあ、いろんなことが言われておるわね、確かに、そういうものがあるにこしたことはないけれども、とにかく、仕事に取り組む人でも、経営者でも、その最初の、というか基本の条件は、この熱情というか、熱意やな。
もちろん、正しい熱意や。それに誠意ある熱意や。そういう熱意だということは当然やけど、そういう熱意のあるところ、必ず道が開けてくるね。熱意は成功のハシゴということ。いつも言っておるやろ、2階にどうしても上がりたい、そういう熱心な思いがあれば、そこにハシゴという知恵がうまれてくるんや。熱意がなければな、最初から、考えようともしないし、ハシゴという知恵も生まれてこんわな。
販売のやり方がわからん、けど、なんとしても商売を成功させたい、そういう懸命な思い、情熱というものがあれば、そこになんとしてもという思い、努力が生まれ、工夫も知恵も生まれて、そこに成功の道が発見されるようになるんやな。
新しい商品をつくりたい。何としてもつくりたい、そうほんまに思い集中するなら、考え出せるわけや。けど、なかなか一人で考え悩んでおってもつくり出せんと言うんやったら、他人に素直に教えを乞う、尋ねる、指導を仰ぐということもしたらええわな。
自分の内側を見直す
経営がうまくいかん、仕事がうまくいかん、どうも発展しないということであれば、ひるがえって、正しい熱意、誠実な熱意、素直な熱意を、わが体の中に持っておるかどうか、考えてみたらええな。
“熱心にやっております”と言うけど、それがほんまもんであるかどうか、そこに尽きるわね。燃えるような情熱、熱意があれば、おのずとそのときどきにおける、成功するに必要な知恵がみつかるんや、わしの経験からやけどね。
わしは、人材を起用するときにも、原則として、その人の、いろいろな能力よりも、その人の、どれほどの熱意があるかどうか、体にみなぎるほどの情熱、熱意があるか、正しい、そして誠実な熱意があるかどうかを見て判断してきたわな。そして、大抵の場合、成功したな。
能力というものは、大概は、そう差があるもんではない。誰でも同じようなもんや。だから、人を起用するときに、能力からすれば、大体60点ぐらいもあれば、十分やね。それが、能力はあるけれども、熱情がない、熱意が不十分だということになれば、そういう人をいくら起用してもダメやな」
こうした松下の話を思い出すと、私の起用も、能力ではなく、熱意であったらしいということがおわかりいただけるのではないかと思う。いかがだろうか。
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