わしは、会社の経営で、いろいろなやり方を考えだしたけど、どれも、わしの、そういう人生を背景に生み出されたものが多いというわけや。たとえば、事業部制にしても、体が弱かったから、直接に仕事をやるということは出来んかった。それが、きっかけやな。また、たくさんの人達に教えてもらいながら、衆知を集めて経営をしたのも、学校出てへんかったからやな。そういうことで、経営も商売も人に任せながら、人に尋ねながらやってきた。
それがうまくいったんやな。そういうことを考えてくると、今の会社の発展は、多くの人達に助けてもらった、導いてもらったというのが実感やな。どう考えても、わしが優秀だとは思えんもんな。まあ、凡人や。けど、凡人やったから、結局は、わしは、成功したんや、ということになるんやろうね」
「凡人だから成功した」という思いは、相当に強かったように思う。成功の理由、発展の理由を尋ねられると、いくつか、思い当たることを、その時々に語っている。
「たまたま、運がよかったからですわ」とか、「雨が降れば傘をさしまっしょろ、ごく自然に。そういうふうに、無理をせずに、極めて自然に、無理せず、淡々とやってきたからですわ」、あるいは、「なすべきことをひたすらにすすめてきた姿勢が、世間の皆さんに受けいれてもらえたからだと思いますね」などと答えているが、必ずと言っていいほど、「自分が凡人だった」ということを付け加えている。
松下が思う、9つの発展要因
昭和44年10月29日有恒クラブ経営懇話会で、みずからの考える「松下電器発展の要因」と題して、講演している。その要因を9つに絞って話をしているが、この時も「自分が凡人であること」を挙げている。
「どうしてこんなになった(松下電器が発展した)のだろうかという感じがしますが……」と言って、まず、電気に関する仕事が、時代に合っていたこと。2つ目は、人材に恵まれたこと。3つ目は、理想を掲げたこと。4つ目は、企業を公のものと考えたこと。5つ目は、ガラス張りの経営を行ったこと。6つ目は、全員経営を心がけたこと。7つ目は、社内の派閥をつくらなかったこと。8つ目は、方針が明確であったこと。そして、最後に、9つ目として、自分が凡人であったこと、と説明している。
指導者、経営者が、「われ、凡人なり。ゆえに、多くの人の考えを、相談調で聞き、知恵を借り、素直に考え、結論を出し、決断し、実行し、継続するならば、事は必ず成功する」ということではないかと思う。
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