エンジニアが老舗旅館とトトロの木を救う 旅館再生物語から生まれた新しいビジネス

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そのような価値循環が起こっている結果、陣屋コネクトは設立2年にして、110を超える取引先のホテル・旅館に導入されるまでに至っています。経営難に陥った実家の旅館を再生させ、その改革システムを業界全体に提供することで、新しいビジネスを生み出すという新しいビジネスモデルなのです。 

キャンピングカーで各地を回って、宮﨑さん自身がシステムの営業や導入支援を行っている

業界を知らないからこそできることがある

システム導入を中心とした老舗旅館の再生から、旅館業界全体の課題を捉えたシステム外販とビジネスの拡大に至るまでの一連の成功プロセスのカギは、宮﨑さんの、エンジニアから旅館経営へ、という特殊なキャリアシフトにあります。

旅館は「おもてなし」や「非日常の緩やかな時間の流れ」など、合理的で効率的な世界とは対極にあるアナログ的な価値を提供しています。このような価値を提供している旅館にあって、オペレーションが効率的であるからこそ、お客様との時間の共有などのアナログ価値が増すという思考を持つのは簡単ではありません。

だからこそ、そこを橋渡しすることができたのが、まったく異なる業界から来た宮﨑さんだったと考えられます。宮﨑さんが元湯陣屋に参画する前、ホンダで燃料電池の開発に従事していた際の仕事のゴールは、達成する夢に対していかに合理的で効率的な技術を作るかというところにあったはずです。ここで培われた合理的、効率的思考が、旅館の提供すべき価値と結びついたことで、新しい価値が生み出されたのです。

日本では、人材はITや金融、商社、メディアなど、一部の業界に集中しているように見えます。特に歴史が長く、売上規模が縮小しているようなコンサバティブな業界では、業界外からの新しい人材の流入が起こりにくくなっています。逆にだからこそ、そのような業界ではちょっとしたきっかけが新しい価値になる可能性があり、まったくの異端が活躍できるチャンスがあるのです。

【お知らせ】
マザーハウスでは本連載のテーマに合わせてマザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。詳しくはこちらをご参照ください。 
山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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