なぜ「ふかふかの絨毯」は車いすだと困難なのか? 意外なところに社会生活の不便や不自由がある

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だが、国内で障害のこの考え方を知っている人は、まだまだ多くない。

そこで、同機構は「障害の社会モデルの普及活動」として体験イベントを企画した。レストランで健常者と障害者を反転させるという企画は、イギリスの障害学の研究者ヴィック・フィンケルシュタイン(Vic Finkelstein)の寓話『障害者の村』から着想を得たものという。

第1回バリアフルレストランの様子。中央にいるのは車いすYouTuberの寺田ユースケさん(写真:公益財団法人日本ケアフィット共育機構提供)

同機構は、家に閉じこもりがちな高齢者や障害のある人たちが外に出て、自分らしく活動できる社会づくりを目指してきた(⋆1)。今回の取り組みについて、同機構経営企画室室長の佐藤雄一郎さん(36歳)はこう説明する。

「講座のテキストで『障害は社会が作っている』などの記述を読んでも、実際にはどういうことか実感が湧きにくい。障害のない人は何が問題か、何を意識すればいいかわからない。そこで、自分ごととしてとらえてもらうために架空の世界を作りました」

"障害のある人は社会におけるマイノリティ"という考えは、世の中の共通認識ともいえるなか、「参加者が自分の『普通』を疑わざるをえないようなイベント」を設計したそうだ。

「あれっ」という感覚が出ることが大事

監修者として関わった東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター教授の星加良司さん(46歳)は、「インパクトのある体験をすることで興味や関心を持ち、自分のなかで『あれっ』という感覚、気づきが出てくると、考え方が変化しやすい」と話す。

星加さんは1歳のときに小児がんを発症し、5歳で失明した。大学院時代に障害学と出会い、障害の社会モデルの理論を研究してきた。これまでの人生を振り返って、「障害者に関する法律や制度は整備されてきたが、人々の考え方は昔からの障害の医学モデルのまま」と憂う。

それでは、障害の社会モデルへ世の中が変化していかないと、社会でどんな問題が起こるのか。星加さんはこう説明する。

「障害の医学モデルでは、障害のない人を前提に社会環境が作られているため、社会の『偏り』が生じ、そのことによって"困らされている人"と困っていない人という立場の違いが起きています。

そして、困っていない人が困らされている人に手を差し伸べるという上下関係が続けば、困らされている人はずっとその立場に置かれ、その役割を押し付けられてしまいます。それでは根本的な解決につながりません」

星加さんが「困らされている人」と表現するのは、「障害のある人」の英単語が「disable person(できない人)」から「(社会の障壁によって)disabled person(できなくさせられている人)」へ変更したことを指している。

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