当時、事務の仕事を離れた藤崎さんは、もともと在籍していたネットニュースの会社から、業務委託でライティングの仕事を引き受けていた。
だが、会社員に苦悩があるように、フリーランスにも特有の苦悩がある。「その仕事だけで食べていけるとは思えなかった」藤崎さんは、故郷からほど近い場所にある、とある医療機関に就職することにした。経済的に自立して自分の生活を安定させることを第一に考えたのだ。
物理的に距離が離れたことも影響し、結婚問題がうやむやのまま遠距離で交際を続けていた婚約者とも、秋を迎えた頃に別れることになった。
「QLCは人生のチュートリアル」
このように、30歳を前にして、公私ともに環境が大きく変わった藤崎さん。
真面目な性格ゆえ、自分の人生について真剣に考えるゆえの迷走が続いた数年間だったが、幸いにもこの半年ほどで、精神的にはだいぶ落ち着きを取り戻したという。
「いろんなモヤモヤした気持ちを記録しておこうと思い、30歳目前でブログを書き始めたんですが、それがQLCを抜け出すうえでは結構よかったです。ただ紙に書き出すよりも気持ちの整理になるし、ネット空間でシェアすれば、感想を寄せてくれる人もいますしね。
それと同時に、目標の進捗報告会をSNSで呼びかけて開催するようになりました。月1回、それぞれが掲げた目標の進捗を報告しあう、という会なのですが、自分の歩みを可視化できたんですよね」
書くこと。それをネットで発信すること。どちらも以前の仕事でしていたことだった。
「あとは、婚約者と別れたあと、京都へ一人旅したことで、少し自信もついたように思います。それまで私は一人旅の経験がなかったんですけど、意外と平気なことを知って、『大丈夫だ。この先、何があっても自分で好きなように人生を楽しくしていける』って、不思議と思えたんですよ」
さぞ劇的な変化があったのだろう……と思いきや、心の平穏に影響したのは、小さな工夫や心がけだったようだ。
そんな彼女も今年、30歳を迎えた。自身の20代を振り返るとどう思う? 尋ねると、穏やかな口調でこう言った。
「この10年ほどの経験は、これからの人生に向き合ううえでの、覚悟を決めるチュートリアルだったような気もします。『思っていたよりも、人生って辛いことが多い』というのが率直な感想なんですが(笑)。
逆に言えば、今後、何か理不尽なことがあっても、よりよい選択をするための経験ができた。それが私にとってのQLCという期間だったと思いますね」
自身の20代を「つまみ食い」と形容する藤崎さんだが、いろんな経験を積み、「思っていたよりも、人生って辛いことが多い」という現実を知ったことは、大人としての一歩を踏み出したとも言えるだろう。
希望というのは絶望の対極にあるのではなく、概して絶望の先にあるもの。「この先、何があっても自分で好きなように人生を楽しくしていける」という言葉が、そんなことを感じさせる。
酸いも甘いも噛み分けるということわざがあるが、アラサーの彼女はまだ「酸いも甘いも噛み始めた」ばかり。この先もまだまだ辛いことはあるに違いないが、誠実な彼女ならそれらをも含めて、人生の肥やしにしていってくれるに違いない。
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