どんな仕事でも、20代中盤でオリジナリティーのあるアウトプットなど、そう簡単にできるものではないはずだし、SNSで目にする一部のトップランナーと自分を比較するのもナンセンスに思える。
だが、藤崎さんは自分に厳しかったようだ。親の教育で根づいた「苦手なことへの執着」や、持って生まれた「自分に厳しい性質」が、ここでも顔を出したのかもしれない。
「親としては単純に、『苦手に取り組むことの大切さ』を伝えたかっただけだと思いますし、実際、努力することの大切さを知れたり、勤勉さを身につけられた側面もあると思います。そこは感謝してるんですけどね」
子どもを思っての言葉が、逆に子どもを苦しめることもある……教育とは難しいものだ。
恋愛でも「婚約破棄」を経験
そんなふうに、自身の仕事やキャリアへの悩みが深まる一方、私生活では交際1年半のパートナーと婚約することに。コロナ禍でお互いの両親に直接挨拶する機会もなかったが、婚約者と同じアパートの別の部屋に住むという、半同棲生活を始めた。
だが、結婚を真剣に考えると、毎日記事配信があるゆえに、つねに緩やかな繁忙期が続くネットニュース編集部で働くことは困難に思えた。「この仕事を続けながら育児はできるんだろうか?」「自分の人生は、この方向でいいんだろうか?」といった不安を抱くようになり、婚約者と相談した結果、3年間在籍した編集部を去ることに決める。
「退職を決意した理由はいろいろありますが、一番大きかったのは、自分が誰のために仕事をしているのか、よくわからなくなっていたことでした。
苦手なりに力を込めた取材記事より、読者の不安を煽るようなコタツ記事のほうが数字を出しやすい現実も知り、WEBメディア業界で頑張り続ける気力がなくなっていった感じです」
本連載で繰り返し記載していることだが、QLCには「ロックアウト」「ロックイン」という二形態があるとされる。それぞれ「ちゃんとした大人になりきれていないと感じる」「逆に、大人であることに囚われ、本当の自分を見失っていると感じる」といったニュアンスだが、「苦手なこと」に執着し、周囲と比べてしまった藤崎さんの場合は前者に当てはまりそうだ。
その後、転職活動を経て、事務の仕事についた藤崎さん。しかし、迷走は終わらなかった。新たな職場の殺伐とした人間関係に馴染めずに3カ月で退職し、30歳手前で4回目の転職活動に突入したのだ。加えて、婚約者との関係にも問題が生じていた。
「リモートでお互いの両親に挨拶をしようと話していたある日、彼のスマホに母親から『結婚はやめておけ』という内容のLINE通知が来ているのが目に入って。彼に聞くと、彼の母親が私や私の両親の悪口を言っていたんです。コロナの影響もあり、私とも会ったことがなかったのに、親まで悪く言われて。
彼の母親は精神が不安定で、通院歴もあったようなのですが、私としては何より彼の対応が一番ショックでした。積極的にトラブルを解決する姿勢を見せるわけでもなく、自分の親の話題を避けるだけ。『この人と結婚して、本当に大丈夫なのかな?』と、ふたりの将来に不安を抱くようになっていきました」
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