クリエイティブ職が財務諸表を読むべき納得理由 課題解決に必要な「全体」「上流」を見る技術

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クライアントの立場に立って考えたり、クライアントの目線でものを見ることができません。たとえば「商品の認知率を上げたいから広告を出したい」と相談を受けた場合、本来なら認知率のあとに売り上げや利益がどのくらい上がるのか、そこから考える必要があります。その先にあるゴールを見失ってしまうと、単に認知率や好感度だけ上げればいい、ということになりかねない。下手をすると見当違いの仕事をしてしまいかねません。

広告(だけ)をやりたい人はいない

私がこのことに気づいたのは電通に入社して8年目のときでした。不動産会社のマンション販売のお手伝いをしていたとき、ビジネスの全体像を教えてもらうことができたのです。マンション販売は、成功すると最終的に売り上げの10~20%ほどが利益として残る構造になっています。逆にいえば、80~90%は必要経費の支払いに消えるわけです。最も大きいのは土地と建設会社への支払いで、そのほかにも設計会社や販売会社、モデルルームなどに対しての費用が発生します。

広告代理店の営業マンという立場だった私は、その中からマンション販売のための広告費を獲得するのが仕事だったのですが、そのときに気がついたのはこういうことでした。クライアントが求めているのは、効果的に広告を打つことではなく、マンション販売を成功させることだ、と。与えられた予算は、実は広告に使わなくてもよく、別の方法で同じだけのマンション購入者を見つけてもいい。自分の友人や知り合いにお願いしてマンションを買ってもらうことができれば、それも1つの課題解決になるわけです。

不動産会社のマンション販売のケースを取り上げましたが、ほかの業界のほかのケースでも同じです。必ずそこにはビジネス上の仕組みがあるはずです。そして、ビジネスの全体像から考えれば、広告は必ずしも必要がないという結論に至ることは、よくあります。

自分で会社を経営するようになって一層痛感したことがあります。それは、広告(だけ)をやりたくてしょうがない経営者はどこにもいないということです。クライアントが求めているのは、売り上げを大きくすること、利益を大きくすることであり、別の言い方をすれば、世の中に価値を提供し、その対価として利益をあげる、ということです。

そのためには、その業界の収益構造やビジネスモデルは知っておかないと致命的です。この知識がないと、「お金をいくら使ってくれるか」「いくらくれるのか」という目線だけでクライアントと付き合うことになってしまうのです。広告代理店で言えば「広告が売れればいい」「広告を買ってくれる人だけを大切にする」ことになり、一緒に課題を解決していく関係にならないのです。クライアントの課題を解決するためには「枝葉」ではなく「幹」をしっかりと見極める必要があるのです。

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