奄美過疎地に住む仏男性が日本人に伝えたい危機 きれいな海と住民の暮らしをめぐる複雑な事情
2000年に上映された映画『ザ・ビーチ』などの影響もあり、かつて一部の欧米の旅行者たちは秘境を求め、自然豊かなビーチに価値を見出すようになった側面もある。そして、そのニーズに合わせるように世界中で開発が進み、また1つ秘境が消えていく――。そんな状況を知るジョンさんだからこそ、日本のビーチの価値を俯瞰的に捉えているのかもしれない。
「秘境と言える日本のビーチは、一部のコアな欧米系の旅行者や駐在員を除けばその存在を知らない人が多い。ただ本当に自然が好きな人々にはかなり深く刺さる。特に奄美大島や沖縄の石垣島といった離島では、プライベートビーチに近い手つかずの無人ビーチがある。世界中で無人ビーチが減少した今、これは多くの旅行者を惹き付ける要素です。
初めて奄美や沖縄の石垣島などを訪れた旅行者は、その美しさに息を呑む。そして、残していかないといけない景観だ、と私に伝えてくれます。世界中でビーチの開発が進み、差別化が難しくなったことに対して、日本ではそういった場所が“残って”いたんです」
自然を求め多くの秘境を訪れてきたが、中でも特に嘉徳に惹かれ居住までしているのには明確な理由があるという。
「浜に河川が流れている場所を見たのは初めてでした。コンクリートの人工物がいっさいなく、湾の中に集落がある。護岸がないビーチは驚くほど砂がきれいで、アダンなどの植物がシーウォールとなる。
日本中を探しましたが、そんなところはどこにもなかった。その希少性は外から見ないと理解できないかもしれない。日本では護岸があることが“当たり前”という感覚があるからこそ、本当の価値を訴えるために発信していく必要を感じたんです」
日本のビーチは十分な伸びしろがある資源
「じゃらんリサーチセンター」が2018年に行った「2030年観光の未来需要予測研究」では国別に観光体験需要をデータ化している。これを見ると、自然景観を楽しむという項目は、中国で2位(43%)、ドイツで2位(31%)、アメリカで4位(43%)と高い水準にある。
それでも現状では、日本の海を訪日目的にあげる旅行者は全体のパイの中ではまだまだ限定的だ。都内の旅行会社代表が解説する。
「沖縄の離島や屋久島といったごく一部を除けば、日本の海を訪れたいという要望は少ない。冬のスキーの需要は年々高まっていたにもかかわらず、です。残念なことに市場やポテンシャルを秘めているのに、その活かし方をわかってないともいえます。
行政や民間も中国を中心とした買い物需要に指針を振りすぎて、コアな旅行者やリピーターへ向けた視点が欠けている。日本のビーチというのは、まだ十分な伸びしろが残された資源であるといえます」
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