奄美過疎地に住む仏男性が日本人に伝えたい危機 きれいな海と住民の暮らしをめぐる複雑な事情

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奄美の地元紙である「南海日日新聞」は2月23日付の記事で、22日から嘉徳で本格的な道路工事が始まったことを伝えた。嘉徳浜を未来に遺したい人たちが工事現場にタープを設置し、バリケード封鎖して猛抗議を行うなど事態は混沌としている。

活動から7年が経過し、ジョンさんは集落に住む建設業の男性に鎌で脅され、襲われそうになったこともある。命の危機も感じたとこともたびたびあったが、屈することなく抗議を続けている。

工事反対に同意する署名は3万5000を超えたが…

集落に住む人間は「本当は反対したいけど、集落に住む数人が護岸建設工事の利害関係者である。仕事がないこの場所で生きるために必死で、声を上げたら確実に村八分にされてしまう怖さがある。だからね、みんな他人事で見て見ぬふりなんです。しがらみに縛られないジョンさんは、本当に勇気がある人ですよ」と明かす。

工事反対に同意する署名も3万5000を超えた。それでも無情にも工事は進み、会が求めていた話し合いの場が持たれることはなかったという。構造的な問題が解決されない限り第2、第3の嘉徳が出てくる、とジョンさんは警鐘を鳴らす。

「2017年の国会で、鹿児島1区の川内博史代議士(当時)が嘉徳のことを国土交通省と環境省に質問した。『日本に人工物がない砂浜、浜がどれだけ残っているか』と。その答えを誰も把握していなかった。これはつまり最後の最後まで壊されても、誰にも知られることはないということ。そういった現状に強い危機感を覚えているんです。これまで住んだ各地で海岸が壊されるのを見てきたけど、今回で本当の最後にしたい。強い覚悟を持ち命がけで戦わないと、何も変えられないんです」

海や生態系を破壊してまで、本当に必要な工事が果たして日本でどれほどあるのか――。ましてや世界自然遺産を破壊してまで。奄美の価値を誰よりも理解するフランス人は、そう訴え、眉をひそめた。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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