ウクライナ侵攻を決断したプーチン大統領の変質 クレムリン最高幹部も異論挟めない独裁者化が進む

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2021年12月、定例記者会見でのプーチン大統領。ウクライナに侵攻した彼の本意は何か(写真・2021 Bloomberg Finance LP)

30年以上前に独立した隣国ウクライナをロシアの衛星国に変えようとして全面戦争を仕掛けたプーチン大統領による今回の侵攻。冷戦時代にソ連が有していた「勢力圏」の復活に執念を燃やす大統領が、前世紀的大国主義に基づく蛮行を行った。国際社会を一挙に敵に回した暴挙の背景には、権力の一層の集中で独裁色を強め、反対意見を進言する側近もいなくなったプーチン政治の変質がある。

側近中の側近も反論できず…

驚愕の出来事ばかりの今回の侵攻劇。2022年2月21日深夜の国家安全保障会議(SGB)の異様な進行もその1つだ。安保問題での最高決定機関であるSGBは、この日に限って深夜に、しかもテレビ中継された。プーチン氏は居並ぶ最高幹部たちを前に、ウクライナ東部を2014年に武装占拠して作った親ロシア派の2つの「共和国」を国家承認することを提案した。これを受けて、一人一人が登壇して自分の意見を述べ、事実上の踏み絵を踏まされた。

ラブロフ外相らが次々と賛成を表明する中、1人が緊張した表情で登壇した。ナルイシキン対外情報局長官だ。プーチン氏と同じKGB(旧ソ連国家保安委員会)のスパイ出身で対外諜報活動のトップだ。一時は大統領府長官を務め、「ポストプーチン」の有力候補の一人と目され、日本政府が東京に招待したこともある大物だ。

しかし、その彼が顔は緊張でこわばり、口ぶりはぎこちない。「最後に西側のパートナーたちにチャンスを与え、至急ウクライナが平和を目指すよう強制してもらい、だめなら結局今日の提案通りに……」と要領を得ない。すると、いら立ったプーチン氏は「また西側と話し合いをしろと言うのか、はっきり言いなさい」と突っ込む。するとナルイシキン氏は両共和国の「ロシアへの加盟を支持する」とトンチンカンな回答を行った。これにプーチン氏は「今そんな話はしていない」と怒りを隠さなかった。結局、ナルイシキン氏は大統領の提案に賛成を表明した。

できない生徒を叱る教師のようなこのシーンは、クレムリンの最深部で起きているプーチン体制の激変ぶりを図らずもさらけ出した。2000年の大統領選でプーチン氏の選挙戦略をまとめ「プーチンをつくった男」と呼ばれる独立系政治コメンテーターであるパブロフスキー氏はこう指摘する。「出席者は皆、自分のものではない意見を言っただけだ。皆プーチンを恐れている」。最高幹部ですらプーチン氏に異議を唱えることができなくなっているという。

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