「長すぎる老後」に私たちはいかに稼げばいいのか 「高齢者」でなく「戦力」として評価されるか
牧野:年金は納めた保険料に応じて還元されますから、現役時代に高収入だった人は受給金額が高く、低収入だった人は低くなります。つまり、現役時代の格差がそのまま反映する仕組みです。低収入で預貯金が十分にできなかった人ほど年金が〝命綱〟になるのに、それが少ない。しかも平均寿命の伸長から、ますます老後は長くなります。この矛盾をどう埋めるか。
現在の政策は「年金が足りない分、長く働いてください」です。2021年4月、高年齢者雇用安定法が改正され、政府は事業主に70歳までの雇用を努力目標として提示しました。いわゆる「定年延長」です。しかし、企業としては無い袖は振れません。70歳まで全社員を雇うなら、返す刀で若年層の給料を下げざるを得ず、研究開発も新規投資もできなくなります。
定年延長のリアル
牧野:私が調べた限り、現時点でまったくハードルを設けずに定年を延長している企業は見当たりませんでした。たとえば損保ジャパンは70歳定年を打ち出しましたが、望んだ社員100人のうち、社が提示した条件をクリアできたのは30人程度で、他はあっさりとはねられてしまいました。企業にすれば、労働生産性を上げるために40代でも篩(ふるい)にかけたいのに、60歳以上の社員を無条件で雇う余裕などない、というのが本音でしょう。
河合:前述の「高年齢者の雇用状況」によれば、定年制度を廃止した企業は2.7%ですので、「年齢にこだわらない」ところはきわめて少数派なんですね。66歳以降も働ける制度のある企業は33.4%ですが、66歳以上の定年制度のある企業は2.4%にすぎません。66歳以降も働ける制度があるといっても、週に数日などアルバイトのような条件で採用しているところが多いのが実情です。
60代にもなると健康状態の個人差が拡大します。60代後半の人は万が一、勤務中に倒れられたら困るので、企業側としては健康面でのチェックを厳格に行ないます。さらに、各企業ともデジタル化を推進している転換期にあり、若い世代に対してもリスキリングや職種転換を求めているところです。こうした大きな変化に対応できるだけのスキルを持っているのか、シビアに能力が査定されるということです。企業はボランティア活動ではないので、年齢にかかわらず「誰でもいい」とはならないのは当然です。
高年齢者雇用安定法改正の効果がこれからじわじわ効いてくるでしょうから、2030年に向けて70歳まで働く人は増えていくでしょう。ただ、誰もが満足する仕事に就き続けられるとは限りません。2030年まではわずか8年しかないわけで、65歳定年制の会社すらまだ少数派であることを考えれば、「70歳定年」の企業が急増しているとは考えづらいですね。