夫が統合失調症、息子のために別れるべきか 夫の病気が与える悪影響が心配

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自分が置かれている立場を隠したり逃げたりする生き方は、本当の自分自身を否定することになり、そこで結ばれる人間関係も、偽りの上で築かれていることになります。

そして悲しいというか滑稽なことに、そのように生きること自体が、自身がいちばん憎んでいる差別構造の差別する側に、無意識にでも加担することになってしまうのです。中でも悲惨な事例では、差別する側に回ることで、“弱者である自分”との決別を図ろうとする生き方も見受けられます。

時に排外的で過激な言動で保守政治家と関係を築いていた故・やしきたかじんさんの父親が在日韓国人で、たかじんさん本人に自身のルーツに葛藤があったと、その死後、メディアに書かれました。たかじんさんの排外的な言動は、「差別される側」から「する側」に自身を転換させるための対応だったのではと思います。

薬害エイズで最初に実名を公表した川田龍平さんは、その時まだ10代でした。のちに衆議院議員になられた母親の考え方が大きく影響したと想像されますが、実名公表第1号として大きくニュースになったこと自体が、当時のこの病気に対する偏見や差別を物語っていると思います。

多くの、差別を受けている病気を抱えている人たちが、結婚などに差し障ると言う理由でその病を隠していますが、その人たちの生き方を、この社会では誰も批判する資格はありません。

しかし川田さんがその病を実名で公表する人でなかったら、彼自身が今、衆議院議員として活躍していますが、これだけの大きな仕事に関われる人生を歩めたかどうか。また、それだけの期待を人々から寄せられる存在になり得たかどうか。薬害肝炎訴訟の福田衣里子さん然りです。

原因不明や風評被害も差別を助長する

結核が日本人の死因の1位で、不治の病と恐れられたのは半世紀以上前の話です。それよりも前に特効薬が日本で使用され、不治の病ではなくなったのに続いたハンセン病患者に対する差別や偏見の歴史は、筆舌に尽くせないものがあります。

これらの病気が国の恥とされた時代では、完治しても家族に迷惑がかかるという理由で家に帰らず、故郷の近くまで行って、無言電話で母親の声だけを聞いて療養所へ戻る人のエピソードを読んだときは(神谷美恵子『生きがいについて』)、その底しれない差別の実態を知り、絶句しました。

どれだけの人がこの病気の偏見と差別と圧迫の中で、果てて逝ったことでしょう(神谷さんはこの病気の弱者の資格のない人でしたが、この病気の人に寄り添って治療や研究に生涯を捧げることに、自身の生きがいを見つけた人です)。

次ページ父親の病に無理解な息子の生き方は悲劇
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