ウクライナ戦争「振り上げた拳」の難しい下ろし方 ロシアの「愚行」の出口を戦争終結の戦史から探る

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時計の針を再び現代に戻そう。2月28日、ベラルーシのゴメリで1回目の停戦交渉がおこなわれた。停戦交渉の呼びかけは、2月25日にウクライナのゼレンスキー大統領が行ったものである。

この場でロシア側はウクライナ側に、降伏に近い条件を提示したようである。現状ではNATOの直接的な軍事介入は望めない。もしウクライナ側が大きな犠牲を払うよりもロシア側の条件の下での即時休戦を選ばざるをえないのであれば、ロシアは「和平合意」の名の下に、ゼレンスキー政権を強制的に退場させ、「ウクライナのペタン」を傀儡に立てることも考えられる。つまり、第二次世界大戦下のフランスと同様、ウクライナの自由と独立が失われるかたちでの戦争終結となるだろう。国際秩序に与えるダメージは計り知れない。

ロシアの「現在の犠牲」が想定より高まることも

ただ、このままプーチン氏の思惑通りに事態が推移するとは限らない。そもそも戦局の推移によって想定外の展開も起こりうるのが戦争というものである。

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ウクライナが犠牲を受忍し、また西側からの武器供与などを得て、徹底抗戦を続けたり、あるいは休戦後の傀儡政権の下でも「レジスタンス」による抵抗運動が長期化したりして、ロシアにとっての「現在の犠牲」が想定よりも高まることも考えられる。実際にロシア軍はウクライナ軍の予想以上に強い抵抗にあい、侵攻のスピードに遅れが出ているとも伝えられる。

また、何らかの理由で「将来の危険」に対するプーチン氏の認識に変化が生じた場合、ロシアの出口戦略も変わらざるをえず、「妥協的和平」に転換する可能性もないわけではない。大量の血が流された挙句、ロシアは得るものなく、ウクライナを去る、という結果もありうる。

いずれの出口にいたるにせよ、ロシアによるウクライナ侵攻は「愚行」としてはっきりと歴史に刻まれることになるだろう。

千々和 泰明 防衛省防衛研究所主任研究官

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ちぢわ やすあき / Yasuaki Chijiwa

1978年生まれ。福岡県出身。2001年、広島大学法学部卒業。07年、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。博士(国際公共政策)。ジョージ・ワシントン大学アジア研究センター留学、京都大学大学院法学研究科COE研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、防衛省防衛研究所教官、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て、2013年より防衛省防衛研究所主任研究官。この間、コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。日本防衛学会猪木正道賞正賞受賞。国際安全保障学会理事。著書に『変わりゆく内閣安全保障機構』(原書房、2015年)、『安全保障と防衛力の戦後史 1971~2010』(千倉書房、2021年)など。

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