侵略戦争の禁止は、歴史のなかで途方もない犠牲を払って国際社会が到達した最も大切な約束事だ。そうした約束にもとづく国際秩序が、国連安全保障理事会(国連安保理)常任理事国によって、いともたやすく突き崩された。
2022年2月24日、ロシアが国際法を公然と破って独立国ウクライナに侵攻した。このような戦争は、本来起こってはならなかったはずの戦争である。しかし、起こってしまった以上は、どこかで収拾しなければならない。
ただ「戦争終結」は、戦後日本の安全保障論議のなかで欠落してきた論点といえる。昨年上梓され、この問題を正面から取り上げた『戦争はいかに終結したか―二度の大戦からベトナム、イラクまで』。同書の著者で防衛省防衛研究所主任研究官の千々和泰明氏が、同書で提示した分析視角やそこで紹介した戦史の事例から、ウクライナ戦争の「出口」について考察する。
「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」のジレンマ
2月28日に1回目の停戦交渉が行われたが、両国の隔たりは大きく、合意には至らなかった。3月2日夜の時点では2回目の停戦交渉が近く開かれる予定だと、複数のメディアが報じている。場所はベラルーシとポーランドの国境と伝えられている。ただし、事態はまったく流動的で予断を許さない。
一口に「戦争終結」といっても、無条件降伏の押しつけで終わったり、あるいは妥協的な休戦で終わったりする場合があり、また妥協的な休戦の場合もその内容はさまざまである。
それらを一望し、教訓を得るための分析のレンズが、「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という視点だ。
ここでは戦争終結には大きく2つの形態があると考える。
1つは、「自分たちの犠牲を覚悟したうえで、自国の完全勝利と交戦相手政府・体制の打倒を目指し、紛争が起こった根本原因を除去して将来の禍根を絶つ」形態である。いわば「紛争原因の根本的解決」である。例えば、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツに対する連合国の立場が当てはまるだろう。
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