逆に、「相手と妥協し、下手をすれば単に決着を将来に先延ばしにしただけに終わるおそれを残しながらも、その時点での犠牲を回避する」形態もある。こちらは「妥協的和平」である。1991年の湾岸戦争において、フセイン体制の延命を許したアメリカの立場が典型的である。
戦争終結の形態が「紛争原因の根本的解決」の極に傾くのか、「妥協的和平」の極に傾くのかを決めるのは、戦争終結を主導する側、つまり優勢勢力側にとっての「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランスである。
もし優勢勢力側にとっての「将来の危険」が大きく「現在の犠牲」が小さい場合、戦争終結の形態は「紛争原因の根本的解決」の極に傾く。逆に「将来の危険」が小さく「現在の犠牲」が大きい場合、戦争終結形態は「妥協的和平」の極に傾くと考えられる。
戦争終結に際して、「紛争原因の根本的解決」を望むと「現在の犠牲」が増大し、「妥協的和平」を求めれば「将来の危険」が残る。このトレードオフ(二律背反)に着目するのが、戦争終結をめぐる「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という分析のレンズである。
「紛争原因の根本的解決」の極をめざすプーチン
このようなレンズからウクライナ戦争を見つめると、どのような示唆が得られるだろうか。
ロシアのプーチン大統領は2月24日にロシア軍のウクライナ侵攻を承認した際のテレビ演説で、ウクライナの「非ナチ化」をめざすと宣言した。第二次世界大戦で連合国は、ドイツとの「妥協的和平」を拒否し、無条件降伏政策を掲げた。そしてヒトラーの自殺とベルリン陥落まで矛を収めず、さらには1945年6月5日の「ベルリン宣言」によってドイツの主権自体をこの世から消滅させた。
「非ナチ化」という言葉からは、プーチン氏が思い描いている戦争終結形態は、「妥協的和平」ではなく、事実上の「紛争原因の根本的解決」の極か、それに近いものであることが見てとれる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら