「ウクライナと露」エネルギーから見る危機の歴史 ロシアと欧州「エネルギー安全保障重視の契機」

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独立を果たしたウクライナは、「生まれながらにして核保有国」、それも世界第3位の核保有国になった。1900個の核弾頭をソ連から受け継いでいたからだ。それらの兵器は1994年の「ブダペスト覚書」で放棄され、ロシアに譲渡された。代わりにウクライナは、ロシア、英国、米国から「ウクライナの既存の国境」を「尊重」するという約束を取り付けた。

欧州に輸出される天然ガスの80%がウクライナ経由

ソ連崩壊後の激動期にも、そのままの形で保たれた機関が1つあった。ガス工業省を改組した国家ガスコンツェルンを前身とする天然ガス会社、ガスプロムだ。輸出用のガスパイプライン(とその輸出で得られる収入)はガスプロムの管理下に置かれ、ソ連時代の西欧のおもなエネルギー企業との取引もおのずとガスプロムによって引き継がれた。

ガスプロムは一躍、世界最大の天然ガス会社になった。ロシア国内では、経済を停滞させないため、たとえ代金が支払われなくても天然ガスの供給を続け、西欧では、信頼できる供給者としての評判を維持した。さらに、逼迫した国庫に貴重な収入ももたらした。

ソ連崩壊後の混乱の中、ガスプロムは過去との継続性だけでなく、西側と統合されるロシア経済の未来をも示していた。民間企業として運営されているというのが、ガスプロムの主張だった。しかし国外では、単なる天然ガス会社とは受け止められていないこともあった。米ソ冷戦の亡霊とも、復活したロシアの力の具現とも、西欧への影響力を高め、ひいては欧米のあいだに楔を打ち込むためのロシアの道具とも見なされた。天然ガスの問題の中心には、ウクライナがあった。

ウクライナは将来、どっちを向くのか。この根本的な問いをめぐって、ウクライナとロシアの関係はソ連の崩壊以来、こじれ続けてきた。今後も東を向き、モスクワの支配下に留まるのか。それとも、西、つまり欧州やEU、あるいはロシア政府にとってはさらに不都合なことに、NATOや米国のほうを向くのか。

天然ガスとパイプラインはこれまで、ウクライナとロシアを結び付ける役割を果たしてきた。しかしそれが今、両国の関係を引き裂こうとしている。ロシアから輸入される天然ガスはウクライナにとって、重要なエネルギー源であり、国内の経済や重工業に欠かせないものだった。加えて、ウクライナのパイプラインと領土を使って欧州に輸送されるロシアの天然ガスに関税(つまり通過料)を課しており、それが国の大きな収入源にもなっていた。

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