アメリカの貧困問題は、子供にもさまざまな影響を与えている。生活態度や学力はもちろんだが、見過ごされがちなのが彼らの食生活だ。
ファストフードやスナック、ソフトドリンクばかり口にするため、子供たちの間にも肥満が広がっているのもそうした問題のひとつだろう。だが、根底にはもっと深刻な問題がある。それは、子供たちが本当の食べ物の味を知らず、実際に食べる食品の数も極端に限られていて、さらに食べるという行為が人間の滋養にとってどれほど大切なのかがわからないということだ。
こうした実態をどうにか改善できないかと考えているのが、アリス・ウォーターズである。
超本格的! 学校菜園の本気度
ウォーターズは、2005年に「エディブル・スクールヤード」というプログラムをカリフォルニアのある中学校から始めた。エディブル・スクールヤードは、直訳すると「食べられる校庭」という意味。学校の校庭で食物を育て、その実りを子供たちが収穫し、キッチンで調理するという教育プログラムだ。
スタートして10年近く経った現在、エディブル・スクールヤードはアメリカ国内だけではなく世界中に広まり、約4500カ所で進められているという。
エディブル・スクールヤードは、このようにして始まった。
毎朝、仕事場へ歩いて通っていたウォーターズは、通り道にある学校の校庭が殺伐としているのが気になっていた。広大な土地がアスファルトで覆われているだけで、何にも利用されていない。もっといい用途があるのではないか。そんなことを地元の新聞紙に書いたところ、その中学の校長がコンタクトを取ってきた。そして、その用途について、何かアイデアはないかと尋ねたのだ。
そう問われてウォーターズが思いついたのは、そこを畑にするというアイデアだった。アスファルトを剥がして土を耕し、さまざまな野菜や樹木を植えて、それを子供たち自らが世話をし、そして収穫して調理する。最後にみんなで食卓を囲んで食べるというのも、大切な要素だ。
賛同した校長は、ウォーターズのアイデアどおりに校庭を作り替えた。カリフォルニアのバークレーにあるこの中学校は、今はエディブル・スクールヤードのモデルケースとして世界中から教育者らが見学に訪れる場所になっている。
校庭に植えられている食物の種類には目を見張る。青菜、根菜はもちろんのこと、キノコ、ハーブ、フルーツまで多様にそろっている。コンポスト(有機肥料)作りも子供たちの役割で、また鶏の世話もある。
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