世界4500カ所!広がる“食育の農場” 「カリフォルニア料理界の巨匠」が挑む貧困問題

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このプログラムを通して、家では口にしないような食物を使って調理をすることで、子供たちはまともな食物の味を知るだけではなく、調理とは自分でできることだと学び、また食べ物とはどのようにして食卓にまで届けられるのかに対する知識も得る。

「食料を育て、料理を作り、自分たちに栄養を与える。子供たちに知ってほしいのは、その大切さです。これまで、1980年代、90年代は、ファストフードが全盛期で、生活も速くチープで簡単にやるのがいいとされてきました。その弊害は大きい」と、ウォーターズは語っている。

エディブル・スクールヤードのプログラムを受けた子供たちは、ほかの子供よりも野菜をたくさん食べるということもわかったという。効果が出ているのだ。そして、そんな子供たちが自分の学んだ新しい食の知識を家族にも伝えることで、アメリカの貧困家庭の問題がゆっくりとではあるけれども、改善される可能性もあるのだ。

有名シェフであり、アクティビスト

そんなユニークな食育のプログラムで注目を集めるウォーターズだが、実は彼女は以前から大きな注目と尊敬を集めてきた人物である。ウォーターズは、言わば「カリフォルニア・キュイジーヌ」の生みの親とされ、バークレーの有名なレストラン、シェ・パニーズを創業したシェフなのだ。シェ・パニーズは、オバマ大統領やクリントン元大統領、チャールズ皇太子らも訪れたことで知られる店だ。

シェ・パニーズが開店したのは1971年。ここが有名になったのは、その味や新しい調理法もそうだが、良心的に食物を育てる地元のオーガニック農家を自分で探し出して、レストランの食材として使ったこと。結果的に彼らの農業をサポートすることになった。カリフォルニア、中でもバークレーやサンフランシスコはオーガニック・フードに対する関心が非常に高いが、その背景にウォーターズとシェ・パニーズの存在があることは間違いない。

カリフォルニア大学バークレー校に学んだウォーターズは、在学中にフランスへ留学し、そこで人々が地元のマーケットで食物を求め、そして集って食事をするさまに感銘を受けた。アメリカに帰国しても、そうした食生活を続けたいと思ったのがシェ・パニーズの基になっている。1960年代後半は、言論の自由を中心にした政治運動にもかかわり、仲間のために調理をしていたという。

ウォーターズにとって、食事を作ること、食べること、生きることは同一のこと。バークレーでは、ウォーターズは有名シェフというよりはアクティビスト(活動家)としての評価のほうが高い。

レストランの拡大戦略も取らず、根気よく食の問題に取り組む。食事とは、自分の滋養のためにある。それを追求することが、ひいては社会の滋養と世界の滋養につながるのだ。

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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