ピーター・ティールの話す言葉は、実にわかりにくい。クリアーカットな内容をわかりやすいロジックで話すパブリック・スピーチに慣れた人々と違って、ティールの語りには熟考された複雑な内容が含まれている。しかも、多数派の意見とずっと離れたところに、自らの立つところを求めている。
今評判になっている彼の共著「ゼロ・トゥ・ワン」も、そうした視点から書かれた起業家のための指南書だ。「同意してくれる人はほとんどいないけれど、重要な真実は何か?」という冒頭の問いからして、それに答えようとするとウ~ンとうなってしまうだろう。
ティールは、人々が気づいていないけれども、今世界で求められているものを探し出せ、と言う。そして、みんなが同じところで競争するようなせめぎ合いに時間を浪費せず、誰もいない市場でモノポリーを果たすような大きな発明をしろと訴える。『ゼロ・トゥ・ワン』は、まさにその意。すでにあるものの複製をたくさん作る「ワン・トゥ・n(無限大)」とは元から概念が異なっているのだ。
「ペイパル・ギャング」など複数の顔
複雑なこと、大きなことというのは、ティールその人自身の姿でもある。シリコンバレー人の中でもエキセントリックな人物として知られるティールは、起業家、投資家、ヘッジファンド・マネージャー、篤志家、ゲイ、キリスト教徒、リバタリアン(放任主義者)、保守的な共和党派とさまざまな顔を持ち、シリコンバレーきってのインテリという評と併せて非常にカラフルな人物像を浮かび上がらせる。
そもそも、シリコンバレーのテクノロジー業界に関わる以前は、法律大学院を卒業してニューヨークで活躍する弁護士だった。だが、怠慢なステレオタイプから乖離したその姿が、何かシリコンバレーの未来を予言するものではないのかと感じさせることも確かだ。
ティールは、まず有名なペイパルの共同創業者のひとりとして知られる。紙幣に頼らない金銭のやりとりを可能にしようとして生まれたペイパルの創業者らは今、「ペイパル・ギャング」と呼ばれるほど、シリコンバレーの底流を支えている。1998年に創設されたペイパルが2002年にイーベイに買収されて得た資金をもとに、彼らはさまざまなスタートアップを立ち上げ、また多くのスタートアップの投資家になったからだ。
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