ピーター・ティールとは結局、何者なのか? 「ゼロ・トゥ・ワン」筆者のとてつもない思想

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その中でもティールは、リンクトイン、テスラ、スペースX、ユーチューブ、イェルプ、ヤマーなどに投資し、またデータ分析会社パランティアは自ら共同創業した。それ以外にも、フェイスブック、スポティファイ、エアービー・アンド・ビーなどのスタートアップにも資金を投入している。どれも、パワフルな企業に育ったところばかりだ。

長寿の研究に、海上都市の建設……

ヘッジファンドでは失敗もあったが、最近のティールを特徴づけるのは、シリコンバレーもびっくりの、とてつもない技術への投資や寄付である。

たとえば、遺伝子テクノロジーなどを利用する生命延長技術はそのひとつだ。彼は、人は故障がなければもっと長らえることができ、死は治療できる病の一種と捉えている。そうした信念から、SENSE研究財団という組織に多額の寄付を行っている。同財団は、さまざまな生命延長の技術を研究し、同分野での研究者を支援する組織。財団の創設者は、「すでに、今生きている人々の中に1000歳まで寿命を延長できる人間がいるだろう」と述べるほど、その技術の実現を信じている。

また、自身も共同創設したシーステディング研究所は、現在のどの国家からも治外法権を保つ海上都市建設を目論んだもの。政府の干渉を嫌うリバタリアンらしい発想だが、「文化的、技術的に難しい」挑戦だと認めている。

さらに、ティール財団が2011年から始めた「20歳以下の20人」プログラムは、毎年20人の若者に10万ドルの奨学金を与えて起業をサポートするというもの。大学での授業などに時間を無駄にせず、自力で大きな事業を起こせという呼びかけに、ユニークな若者がどんどん応募してくる。

新しいソフトウェアやアプリ開発から、人工知能、ヘルスケアまで、彼ら若者が手がける事業は多様だ。アカデミアを軽視して、金儲けに走らせるのではないかと、大学関係者らからは批判も少なくない。だが、ティール自身は「待っていられないアイデアがある」と強調する。

かなりのエキセントリックぶり。しかし、シリコンバレーではティールのような人物こそがエンジンとなって次の時代を生み出すこともある。ここでは、不可能と思われたことも、次々と実現されてきたからだ。その意味で、法外な熱意を持つ彼の存在によってシリコンバレーは未来のシナリオを獲得しているとも言えるのだ。

 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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