確かに、道路や交通システムは近代的になったが、環境対策が追いつていないのが実体である。実は北京の中心部の排水施設も、「100年前のまま」というところが少なくない。なので、少しでも集中豪雨がくれば天安門広場などは冠水して交通は遮断されるほど、社会インフラはまだまだだ。
言わば、北京の環境は「張子の虎」で、「見えるところだけが大都市」なのである。日本人にとっては当たり前だが、中国の旅行者が日本に来て一番感激するのは、空気がきれいで深呼吸が心配なくできることだというから、信じられない。
さて、話題は変わるが、私の友人の昔話をしたい。彼は30年前「あばら家」に住んでいたが、今や中国でトップクラスのレアアース企業の会長になった。中国の「レアアース王」であり、資産は1000億円以上あるのではなかろうか。
薄かった環境問題への認識
初めて会った時、彼は煉瓦職人だった。その頃、彼の家に食事に誘われたことがある。質素な食事だったが、彼と奥さん、子供と、私の4人で「ぶっかけ中華飯」をほおばったものだ。眼だけが異様に輝いている彼は、レアアースの将来を熱く語ってくれた。
私の知る限りでも、彼のレアアース工場は金が回らず3度まで倒産寸前まで行ったが、奇跡的によみがえった。苦労を跳ね返して煉瓦職人から大金持ちに駆け上がるというのはいかにも痛快だ。
今の中国には数百億円程度の大金持ちなど無数にいる。どこの国でもどの時代でも大差はないが、彼らは法律ギリギリのところで勝負をしただろう。一般論だが、国営企業が民営化する時には賄賂を使ったり、環境問題が起きても当局の幹部に贈り物をして何とか切り抜けるといった解決をしたはずだ。
彼は米作農家の密集する場所にレアアースの工場を建設したこともあり、やはり環境が問題になった。工場排水の環境問題で困った近隣の農民が工場を取り囲み、抗議運動をするという事件も何度かあった。彼は、その時につぶやいた。「この村の税金を一番多く払っているのは俺だ」と。30年前の中国は、一般的には環境問題には関心も薄く、排水問題や大気汚染やスラッジの投棄についても、法制度が未整備だったのである。
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