マタハラ被害者を叩く、日本の「現状」を考える 最高裁判決で“空気”は変わるか?
一般的にいって、アメリカ企業は日本企業よりダイバーシティマネジメントが進んでいます。グローバル経営しているとか、人権意識が高いといった前向きな理由もありますが、雇用差別が経営にデメリットをもたらす仕組みが、企業に規律をもたらしている側面もあります。そしてその仕組みを担保するのがEEOCなのです。
たとえば、性差別訴訟に関連して、モルガンスタンレーは2004年に5400万ドル、ボーイングは2010年に38万ドルの和解金を支払っています。どちらの事例もEEOCのサイト内で社名を検索すれば、関連情報をまとめたプレスリリースを見ることができ、会社側が性差別の事実をどのようにとらえているか(否定していることもあります)、詳しい背景を知ることができます。
対照的に、日本の労働局雇用均等室のサイト内で、過去に性差別賃金訴訟で負けた企業名を入力しても、このようにわかりやすくまとまった文書は出てきません。マタハラ被害者からは、自分と同じような経験をした人をインターネットで探したものの、情報が得られなかったという声も聞きました。過去の事例もわからない中、被害者自ら立ち上がらなくてはいけないのが、日本の現状なのです。
米国には、懲罰賠償や集団訴訟といった、個人が裁判を戦いやすい仕組みがありますが、日本がそれをそのまま導入するのは難しいでしょう。ただ、労働行政が労働者の味方になるのか、雇用主の味方をするのか、日本と米国の2つの機関を比べていて考えさせられました。
Bさんは、会社の求めに応じ育児休業を短く切り上げて職場復帰しようとしていた矢先、契約社員への転換を求められました。育休中に保育園が決まったときは「最高にうれしかった。これで何の心配もせずに復帰できると思った」そうです。その後、会社はBさんに退職勧告をしました。「あまりにひどい裏切りに絶句した」というBさんの気持ちは想像に難くありません。
Bさんからは、会社や労働局とのやり取りに関する資料をたくさん見せていただきました。論理的に戦略的にものを考え、必要な業務を遂行できる、きっと会社でも能力を発揮していたはず、と思いました。
日本ではいまだに妊娠を機に6割の女性が仕事を辞めますが、その背景には、企業のコンプライアンス意識が低いこと、そして、行政が弱腰で企業の違法行為を放置するうえ、加害者ではなく被害者をたたく風潮があるために、被害者が泣き寝入りしている実態があるのです。
市場の活性化には、公正なルールの徹底が欠かせません。インサイダー取引が横行する市場を投資家が信用しないように、妊娠降格や解雇が放置される労働市場を、女性労働者は信用できません。最高裁判決が示す道筋は、明確です。より多くの女性に働き続けてほしいなら「妊娠程度では不利にならない」と、女性が信じられるような労働市場を作らなくてはいけない。そのために、被害者が泣き寝入りせずにすむ労働行政を徹底することが不可欠なのです。
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