一流人も実践「コミュ力を高める」たった1つの事 松下幸之助、盛田昭夫も「話を聞く人」だった
田中さんは印象的な演説で、多くの人の心をつかみました。それは事実ですが、口先だけのテクニックであれほど多くの人の心をつかめるでしょうか? 彼は掃除係の1人ひとりにも挨拶をしていたそうです。
そんな人に対する向き合い方、スタンスが滲み出ているからこそ、彼の言葉に耳を傾け、多くの人が心を動かされたのです。だから日本で一番優秀な頭脳集団の大蔵省(当時)の官僚たちが、全員、小学校卒業の田中角栄にコロリとやられてしまうわけです。
議員立法を33本成立させた影に官僚あり
彼は議員立法を33本成立させました。この記録は断トツであり、おそらくこれを破る政治家は今後出てこないでしょう。それは彼の能力もありますが、必死になって田中角栄をサポートした官僚たちがいたからこそなんですね。
それに比べると、昨今のリーダーたちの態度はどうでしょうか? 官僚の思惑に流されないという姿勢はいいとしても、人事などの力で押さえつけ、彼らを無視して政治を進めます。それではもともとプライドが高く、保身と出世が第一の役人が、本来の能力を前向きに発揮しようとは思わないでしょう。
下手に自分が前に出たり、政治家にアドバイスしたりしたら、火の粉が自分に降りかかって来かねないわけです。官僚はもはや政治家が何をしようが、失敗するまで黙っています。そして心の中で、「そら見たことか」とほくそ笑んでいるんですね。
残念ながら、政府も与党も、官僚に対していい向き合い方をしていません。同時に官僚も政治家に向き合っていません。お互いに相手に対するリスペクトだとか、存在を認めて受け入れるというスタンスが乏しいわけです。もはやコミュニケーションが成立しておらず、これでは政治も行政もうまくいくはずがないでしょう。
そもそも相手に向き合っていないのですから、口先だけの美辞麗句を弄しても、相手に響くことはありません。政治家と官僚の関係を例にとるまでもなく、親と子、先生と生徒、職場の上司と部下、仲間や友達同士……私たちの人間関係はすべて同じことです。
コミュニケーションの達人になるには、話し上手になるより、聞き上手になることです。面白いことに、雄弁で知られる政治家や経済人ほど、ふだんは聞き上手の人が多いのです。
かつて総理大臣だった中曽根康弘さんを初めて取材したときのこと。当時私はまだ40代であり、中曽根さんから見れば青二才のジャーナリストにすぎませんでした。ところが中曽根さんは私の話を聞き、大学ノートを取り出すと、深く頷きながらメモを取り始めました。一国の総理大臣が私の言葉をメモしている。そう考えただけですっかり舞い上がってしまいました。
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