大好きな「電通」を辞めて僕たちはどこへ行くのか クリエイティブディレクターが語る広告の未来
東畑:クリエイティブディレクターとして、太郎さんと僕は違うふもとから同じ頂上を目指していて、そのルートは明確に違う。普段自分が考えたことがない、新しい発見がいっぱいありました。この本は「非クリエイターのため」とあるけど、むしろクリエイターの人が読んだほうがいいんじゃないかな。
齋藤:例えばどんな発見がありました?
ビジネスを知らないとつねに満塁を目指してしまう
東畑:印象的だったのは、ハイボールの話で、『角瓶』1本から23杯のハイボールを作ることができる。それは飲食店にとってロックや水割りを出すよりも、利益を出せる。そこがハイボールブームの後押しになったというエピソード。業界の収益構造や力学まで理解することで、世の中を巻き込む現象が作れるんだなと、学びがありました。
経営者から話を引き出す「いい質問」を作るために、会社の財務諸表を見ることがヒントになる。そんな視点を持っているクリエイティブディレクターは少ないと思います。まだまだアイデアをたぐり寄せるヒントはあるんだなと思いました。
齋藤:野球で例えると、ビジネスの構造を知ることは球場の広さや相手の戦力を知ることに近いように思っています。ビジネスを理解していないクリエイターはつねに満塁を目指してしまうけど、本当はバントが重宝される案件もあって、状況によって打つべき手は変わるはず。そこを理解し、把握することが僕らの仕事では特に重要だと思うんですよね。
東畑:太郎さんは表現に近づきすぎないというか、全体像を見ている。みんなが課題に向き合ってるときの目線の上げ方や広げ方が、太郎さんの真骨頂ですよね。
齋藤:それは東畑さんも得意なんじゃない?
東畑:太郎さんは身近でわかりやすいんですよ。「ビアガーデンみたいに、ハイボールガーデンがあったらいいよね」っていう提案は捉えやすいじゃないですか。
齋藤:東畑さんの仕事を見ていると、ど真ん中であり、苦しい道を選んでいるのを感じます。置きに行かず、足跡のない道をわざわざ探している。それを繰り返した結果、誰も登ったことのない山の頂上にたどり着くことができているよね。
一方、今はよくも悪くもデータからいろいろなものが見えた気になって、「失敗したくない病」が蔓延している感じがします。地方都市の街並みも、商業施設の各店舗に置いてある洋服も、どれも似通っている。売れ筋や売り方を考えるとどうしても画一的になって、個性が失われていくんですよね。