大好きな「電通」を辞めて僕たちはどこへ行くのか クリエイティブディレクターが語る広告の未来
齋藤:独立して個人になることで、きっと一段と大きな成長があるはず。東畑さんは今や日本を代表するクリエイティブディレクターだけど、おそらく入社して最初の10年でいちばん成長して、そこからは氷の上を走り出したカーリングのストーン(石)のような感じだったんじゃないかな。その石をもう一度後押しするのが、今回の独立なんだと思います。
東畑:まさに年齢的にもポジション的にも、会社の中である種のゴールが見えてしまった感覚がありました。そのまま余力で残りの時間を過ごすこともできたでしょうけど、もう一度自分を別の場所に連れ出さなければ、新しい自分には出会えない。そう思ったことも独立を考えた理由の1つでしたね。
齋藤:電通を辞める人が僕に報告をしてくれることがあるんだけど、そのときに必ず伝えているのは「絶対うまくいく」ということ。辞めずに会社に残った未来を確認することはできないじゃないですか。そして、自分が選んだ人生をいいものにする「後付け力」が人間にはある。だから「これでよかったんだ」と思える未来は絶対に自分の力で作り出せます。
「教育担当・太郎さん」から学んだこと
東畑:僕が電通に新卒入社して、最初の教育担当が太郎さんでしたよね。社会人として、電通マンとして、大切な基礎を教わりました。あと、入社して早々に太郎さんの結婚式の寿ビデオを作ったことがあって。いわば初めてのクライアントでもあります(笑)。
齋藤:その節はお世話になりました(笑)。
東畑:僕の当時の太郎さんの印象は「ザ・電通」。人間力とパワーがあふれていて、「こんな人には絶対になれないし、この会社で俺はやっていけないかもしれない」と思ったことを覚えています。幸い、その後出会った人で太郎さん以上の人はいませんでしたが。
齋藤:いきなりラスボスに出会った感じだったんだね。
東畑:太郎さんは、相手への気遣いがすさまじいですよね。著書では自身をテイカー(Takeする人)だったと書いていましたけど、めちゃくちゃギバー(Giveする人)だと思います。特に昔聞いてすごく好きなのが「ビッグアイデアよりビッグ愛だ」っていうフレーズで。
齋藤:懐かしい(笑)。相手に愛情を持つことがいちばん重要だというのは、今も変わらず思っていることですね。
東畑:クライアントや関係部署だけでなく、「世の中がどうしたら喜ぶかを考え続けることが仕事なんだ」というメッセージを、僕は太郎さんの姿勢から勝手に受け取っていました。