アメリカで盛り上がる移民排除への動き--ジョセフ・S・ナイ
アメリカは移民をめぐる議論で膠着状態にある。アリゾナ州は最近、不法移民取り締まりのため、厳格な新移民法を成立させた。この法律は、移民に対し外国人登録証などの常時携帯を義務づけるとともに、不法移民と疑われる移民を拘留する権限を警察に与えるものだ。
オバマ政権は同法を批判し、教会も同法は差別的であると抗議。連邦裁判所も「移民問題は連邦政府が所管する問題である」との判決を下し、同法の主要部分の施行差し止めを命じた。それでも、この法律は他州でも支持を得ており、移民問題が政治問題化している。
アメリカが内向きになり、本気で移民を規制すれば、その国際的地位に深刻な影響を及ぼすだろう。アメリカは、移民流入によって人口減少を回避し、世界の人口シェアを維持している数少ない先進国の一つである。しかし、同国がテロ問題や外国人嫌いを理由に国境を閉鎖することになれば、その状況は大きく変わるかもしれない。
移民がアメリカの価値観とアイデンティティを揺さぶるという恐れは、建国当初から存在していた。1850年には、移民、特にアイルランド移民に反対する立場から、反移民政党“ノーナッシング党”が結成された。そして82年に「中国人移民禁止法」が施行されて以降、アジア移民が排斥されるようになった。1921年には国別移民割当制を導入した「暫定移民制限法」が、24年には「移民法」が成立し、日本人を含むアジアからの移民が全面的に禁止されることとなった。その後、40年間にわたって移民の流入が鈍化することになったのだ。