中国の入試「カンニング」驚愕のハイテク化実態 腕時計型専用デバイスや超小型イヤホンも登場

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不正や不公平、格差に慣れているように見える中国人だが、古代から統一試験で人材を登用してきた歴史があるからか、入試の不正にはことのほか厳しく性悪説で対峙する。発覚した際の罰も重い。

試験結果が無効になるだけでなく、懲役刑の前例もあり、2003年に問題用紙を盗んだ受験生は、「国家秘密窃盗罪」に問われ懲役7年を言い渡された。

それでも「大学のレベルでキャリアや収入が決まる」という学歴至上主義の重圧から、目先の合格のためにリスクを冒す受験生は後を絶たない。

日本はどうか。たしかに日本の大学入試では不正はあまり発覚しない。しかし、「発覚しない=発生していない」のだろうか。今回紹介した中国のカンニングはすべて運営側か警察に見つかっている。

性善説を前提とした日本社会

一方、日本をみると2011年に京都大学の受験生が入試問題をヤフー知恵袋に投稿して解答を求めた事件では、後日たまたま知恵袋の投稿を見た第三者が京大の入試問題と一致していることに気づき発覚した。

今回の共通テストの問題流出も、解答を依頼された東大生が不審に思い、大学入試センターに相談して明るみに出た。どちらも試験中はスルーされており、同じ手法ならば受験生と解答を送る側が結託した組織的犯行のほうが見つかりにくいとも言える。

今回の共通テストでの一件が表ざたになると、「不正を働いて合格しても意味がない」「見つかったら割が合わない」という意見が相次いだ。日本社会は個人の良心や倫理観に委ねた「性善説」を前提とした運営が多い。入試会場で電子機器の持ち込みを許容し「電源を切ってください」と呼びかけにとどめているのはその典型だろう。

だが、今回の共通テストの問題流出の手法が10年前のヤフー知恵袋事件から特段のイノベーションがなく、試験に無関係の第三者によって発見されたという共通点から、これらは氷山の一角であり、テクノロジーの進化の中で性善説に基づいた運営はとっくに限界を迎えていると考えるべきだろう。

ワイドショーや週刊誌が連日この問題を報じており、「見つかったら割に合わない」と思う人もいるだろうが、手法がこれだけ丸裸にされると、「自分はもっとうまくやろう」と考える人が出てきても不思議ではない。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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