アメリカの高校生が学校で習う「資本主義」の本質 「新しい資本主義」を考えるいま再確認したい
指令経済――権力者が管理する
狩猟採集社会が拡大し、ついに自然界の食糧が尽きてしまうと、その中から定住して農業を生業にする人たちが現れた。そして農業の出現とともに、栽培、収穫、貯蔵のための組織化されたシステムが必要になる。次第に伝統的なシステムでは管理しきれなくなってきて、より複雑な構造の社会が出現することになった。
ある社会が生き残るには、育てる作物の種類、貯蔵する収穫物の量などを決めなければならない。やがてそれらの決断を中央の権力が担うようになり、指令経済が誕生した。指令経済の大きな特徴は、中央集権的な意思決定だ。力を持つ1人の人物、あるいはグループが、社会全体を代表して経済に関する決断を下す。
古代文明の経済システムは、ほとんどがこの指令経済だ。また、現代の共産主義国家にも指令経済に含まれるものがある。たとえば古代エジプトでは、ファラオが指令経済で意思決定を担う存在だ。ファラオを中心とした支配層が、何を生産するか、どのように生産するか、誰のために生産するかを決めている。たとえば、こんな決断が下されるかもしれない。
「ファラオであるこの私のために、巨大なピラミッドを建造しろ。材料はレンガとモルタル、労働力は奴隷を使え」
この種のシステムの利点は、意思決定の権限を持つ人間が社会に急速な変化を起こせることだ。たとえば、革命前のロシアは農奴制を基盤とする農耕社会だったが、ソ連の指令経済によって世界有数の工業大国になった。
歴史をふり返ればわかるように、指令経済には悲劇的な側面もある。エジプトのファラオは奴隷を使い、スターリンによる五カ年計画は数百万の人々を強制的に移住させ、数百万人の命を奪った。意思決定者が一般の人々の欲求やニーズを満たしてくれることはめったにない。
国家が唯一の生産者となり、競争相手がいない状況では、基本的な生活必需品以上のものを生産するためのインセンティブ(動機づけ)が存在しない。その結果、指令経済では多様性が失われる。